残像

 ひじょうに優れた作品が、公募の文字数を満たしていない、またはカクヨムコンの時期ではないというだけで運営の眼には止まらない。
 ひとさまの作品に対してそんな悔しい想いを、何度してきたことだろう。

 二ヶ月続くコンテストの期間であれば間違いなく一次を突破し、さらには最終候補にも選ばれるであろう作品が、続々と生み出されては眩い才の耀きを放った後に、すう、と数日で消えていくのだ。

 夜明けを決して見ることのないそれらの花火に出会うたびに、胸が詰まる気がする。
湿った砂浜から夜の海を睨みつけるようにして、数多くの良作がほとんど誰からも知られることなく呑み込まれていく黒い波の分厚さに、怒りにも近いものを覚えることがある。

 夜空に打ち上がる鮮やかな彩り。
 その色は、あかだろうか。
 人の脳裏に刻まれる花火の色は時が経つにつれて色褪せ、変色したような白と変わるだろうか。
 煙火店の息子の力作のように、黒画用紙に描き出すその色相が正確なこともあるだろう。
 金色、または青。
 見上げる者の脳をどんと揺らして打ち上がり、煙を残して消えていく。
 そのさまは、わたしが見送ってきた多くの幻の傑作と同じなのだ。

 幼い頃に観た花火は、こちらを呑み込んでくるほどに大きく見えた。
 沖合の小舟から打ち上がった花火が天界を覆い尽くして真上から降ってくるのだ。
 その開花は身動きが出来ぬほどに怖ろしいものだった。
 脳天から足先までを通り抜けていく火の粉は、この世には触れることの出来ない刹那があることをわたしに教えてくれた。

 わたしは今でもあの暗い夜の浜に独りいて、日々打ち上がるあまたの花火が消えていくのをただ見ている。
 美しき華を見ている。
 芸術とは何かときかれたら、人の心に何かを残すものだという、平凡で陳腐な答えがやはり一番近いだろう。
 野蛮な火薬の匂いを風に刷いて通り抜けるその色は、何色なのか。

 この世に生きて、創作に手を染めた者であればこそ、叫び声を上げたいほどに心魂かたむけたものとて所詮は一瞬の閃光にしかならぬことを知っている。

 ほぼ誰にも知られることなくわたしたちの生み出す作品は深海の底に消えてしまう。
 ざぶりと不気味に迫る夜の海と対峙しながら、それでもわたしたちは花火を打ち上げる。
 この寒々しくも虚しい心にこそ紅かたびらは美しい。

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