おじいちゃんとぼく
大隅 スミヲ
第1話
夏休みになるとぼくにはあるイベントが待っている。
それは母親の実家へ行くことだった。
山の中にある一軒家。それが母の生家であり、いまでもそこで祖母や母の兄たちが暮らしている。
母は六人兄弟の一番下だったため、ぼくの従兄弟たちはみんな年上で同じ小学生はひとりもいなかった。
でも、そのお陰で祖父母の愛情を独り占めできた。
「ただいまー」
母が母屋の土間で室内に声を掛けると、腰の曲がった祖母がゆっくりとした動作で姿を現した。祖母は腰が曲がっているため身長がどのくらいあるのかはわからないが、腰を曲げた状態だとぼくとそんなに背丈は違わなかった。
「よく来たねえ」
祖母は皺だらけな顔を笑顔でさらに皺くちゃにすると、ぼくの頭をゴシゴシと撫でた。
家の中に入ると、線香の匂いがした。
お盆ということで、仏壇の前には長机がだされており、その上にはお供えの果物などが並んでいる。
「ほれ、じいちゃんにも挨拶してな」
祖母はそう言うと台所の方へと歩いていった。
ぼくは畳の部屋に入っていって、扇風機の前を陣取っている祖父に挨拶をする。
「じいちゃん、こんにちは」
「おう、よく来たな……」
祖父は痰が絡んだような声で、無表情のまま、ぼくにそう言うだけだった。
いつもと同じ。祖父はいつだって無表情なのだ。いつも、すました顔をしている。たまには笑えばいいのに。ぼくはそんなことを思ったりもしたが、それは祖父には伝えなかった。
ぼくは祖母の家で何日間か過ごした。最初のうちは庭で走り回っているのが楽しくてしかたないと思っていたのだが、それも数日で飽きてしまった。
こんなことだったらゲームでも持ってくればよかった。そんなことを思っていると、祖父が声をかけてきた。
「じいちゃんと裏山行くか」
「いいの?」
「じいちゃんと一緒なら大丈夫だ」
暇を持て余していたぼくは祖父の誘いに乗り、裏山に入っていった。
裏山には大きな木がたくさんあり、カブトムシやクワガタといった昆虫がたくさんいた。
夕方になって家に戻ってくると、母が驚いた顔をして問いかけてきた。
「あんた、どこ行ってたの」
「え、じいちゃんと一緒に裏山」
「え……」
ぼくの言葉に母は真っ青な顔をする。
それもそのはずだ。じいちゃんは、ぼくが生まれる前に亡くなっているのだから。
ぼくは手を洗うと、仏壇の前に行って手を合わせる。
じいちゃん、きょうもありがとう。
そう心の中で語りかけると、写真の祖父が微笑んだような気がした。
おじいちゃんとぼく 大隅 スミヲ @smee
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