第3話 秘密の共有

やたら広くてグリーンが飾られている風呂場。

俺の家じゃ永久に買われることのなさそうなシャンプーやボディソープが並んでいる。遠慮すべきなのかもしれないが、どうにも生臭さが取れない気がして、頭も体も3回ずつ洗った。

念入りに洗ってバスルームを出ると、指定された場所に、着替えと白いフカフカのバスタオルが置いてあった。足が沈むような(かつ吸水力は抜群)のバスマットに足を埋め、身体を拭く。着替えはサイズぴったり。

湿った衣類は、俺が風呂に入ってる間に先に洗濯機に放り込み、洗濯開始されていた。なので、バスタオルだけ雑に畳んでカゴに入れておく。


廊下に出て元居た部屋に戻ると、勉強机の椅子に座って茫洋と宙を眺めるドザエモンがいた。

「風呂、先にありがと」

「…あ、じゃあ僕も行ってくる。自由に過ごしてて」

クローゼットから自分の着替えを取り出して、てくてくと部屋を出ていく。心なしか、その足元がふらふらとおぼつかない気がした。


椅子を見てみれば、案の定、クッションはびしょ濡れ。これも洗濯しないといけないんじゃなかろうか。溜息をついて、クッションを片手に洗濯機のある脱衣所に向かう。

「おい、これも…」

俺が無配慮だった。ノックぐらいすべきだった。

急に覗いた脱衣所で俺が見たのは、上半身も下半身も、全身傷だらけのドザエモンだった。

顔だけが美しく白い。

が、身体には新しいかさぶたも生々しい傷から、赤紫に色素沈着した古い傷跡、ケロイド痕まで。身体のあちこちを、飾っていた。

「えっ、あっ…」

ドザエモンが慌てて風呂場に駆け込んだので見えたのは一瞬だったが。

殊更大きい傷は、背中の傷だった。ケロイドも、かさぶたも。

決して、自分では届かない場所。


「ご、ごめん!クッション濡れてたから持ってきた。カゴに入れておく!」

バスルームの中にも聞こえるように声を掛け、俺も慌てて脱衣所を出る。


あれは。

一体。


俺の世界には無かった光景に、完全に混乱してしまったんだ。俺は。

俺の知らなかった世界の破片を、見てしまったのだから。


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オーバードーズ HARU@ABEND @haru_abend

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