二丁目スナックさいかわ 常連客スミヲ編

大隅 スミヲ

スナックさいかわ スミヲ編

 いらっしゃい。適当に空いている席に座っちゃって。

 いやー、きょうも暑いねぇ。毎日こんなんじゃ、参っちゃうよな。クーラーの温度、ちょっと下げちゃおうか。電気代がどうとか怒られるかもしれないから、内緒だよ。これ、俺とキミの秘密だからね。

 あ、そうそう。ほら、冷たいおしぼり。手を拭くだけでもいいし、顔を拭いたっていいよ。俺はいつも顔を拭いちゃうけれどね。


 さて、何を飲む? え、勝手にカウンターの中に入っていいのかって? いいんだよ、いいの。俺は許されているの。俺は関係者だから。

 え? 俺はそっち方面の人じゃないよ。違う違う、俺はノンケ。2丁目だからって勘違いしないでくれよな。どちらかといえば、女好きだよ。でも、最近は男でもカワイイ子が多いよな。

 この店はさ、オーナーの酒のセンスがいいのよ。色々あるよ。ビールに、ワイン、焼酎、もちろんウイスキーも。最近の若い子はソーダ割りとか飲むんだろ。ハイボールとか、焼酎ソーダとか。

 俺はいつもオン・ザ・ロックだよ。ウイスキーは国産。バーボンとか癖のある酒は苦手なんだよな。


 え? アンタは誰だって? ママたちはどうしたって?

 質問ばかりだな。そんなに俺のことが知りたいのかい。しょうがねえなあ。


 キミはもしかして、物書きか? なんだよ、それなら早く言ってくれよ。話が全然違ってくるじゃないか。ところで、知っているかい、葉月賞のこと。ちょっと特別な話なんだ。大きな声じゃ言えないんだけれどな。きっとキミなら気に入ってくれるだろう。ほら、もっとこっちに顔を寄せてくれよ。大きな声じゃ言えないっていっているだろ。


 今回の『さいかわ葉月賞』はさ、選者が増えたんだよ。ただでさえ、選者の独断と偏見で行われているという賞なのに、さらに選者の特選賞ってのがあるんだ。選者たちも個性派揃いだから、一筋縄には行かなそうだぜ。

 そんな中でも『スミヲ賞』っていう特選賞があるってのは、知っているかい? 「そう来たか!」と思わせるような作品を待っているって開始前は豪語していたけれども、いざ応募がはじまって作品を読んだら、応募作のレベルの高さに舌を巻いてるって話だぜ。きちんと、一作、一作をしっかりと読んでいるし、作品の文章力よりも内容を大事に審査しているって話だ。

 スミヲ賞の選者は、本の虫ってやつで色々なジャンルの作品を読んでいるらしい。現代ドラマ、歴史、ファンタジー、ホラー、恋愛……どんなジャンルでもいけるらしいぞ。だから、どのジャンルでも「スミヲ賞」を狙えるってわけだ。

 だけど奇をてらってスミヲ賞を狙おうとするのは、やめたほうがいいぞ。狙うなら、他の賞だ。もちろん、あんたは葉月大賞を狙っているんだろ。

 ここだけの話を教えてやろう。これも、キミと俺だけの秘密だ。今回の応募は現代ドラマが多いんだよ。あとは恋愛な。テーマが「夏」だから、どうしてもそっちにいきたくなるよな。夏の思い出とかな。そんな中でも、やっぱり目を引く作品っていうのがあるわけさ。正直、読んだ瞬間に「こいつはすげえ」ってなったよ。そんな作品がゴロゴロしているのが「葉月賞」ってわけだ。


 他の選者の賞についても教えてくれって?

 悪いな、他の選者の賞については何も知らないんだよ。選者たちはお互いにどの作品を選んでいるか知らないんだ。だから、xx賞と○○賞のW受賞ってことも有り得るってことだ。


 あ、やべ。ママたちが帰ってきた……。げ、オーナーも一緒じゃないか。

 え? 名前を教えてくれって? 俺の名前か?



「ちょっとー、スミヲちゃん。留守番は頼んだけれど、勝手にカウンターの中に入っていいとは言った覚えはないわよ」

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