汝は陰キャなりや?

脳幹 まこと

結局なんなんだよ


 自分のことを陰キャだと思っている。


 ネットでは陰キャの代名詞として「チー牛(チーズ牛丼食ってそう)」が挙げられているが、自分がそれに当てはまっているからだ。


「チー牛」に限らず、陰キャの立場はあまり高くない。ネット小説だと専ら「逆転前・・・の要素」として用いられているし、煽り文句で「おいクソ陰キャww」は使えるだろうが対の「おいクソ陽キャww」は煽りというか誉め言葉だ。


 どうしてこんなことになったんだろう。


 給料日前にカロリー高めのチョコチップスティックパンを買って糊口をしのぐ。それだってきっと陰キャなのだ。陰キャはなぜか貧乏でもある。なんかこの世すべてのマイナス要素が全部陰キャにまとめられてそうだ。


 陰キャってなんだ。

 GPT-4で調べてみる。


Q. 陰キャってどういう意味?


A.「陰キャ」という言葉は、主に日本の若者の間で使われる俗語です。「陰」は「陰気」や「影」の意味を持ち、「キャ」は「キャラクター」の略です。つまり、「陰キャ」とは、内向的であまり目立たず、人前で話すのが苦手な人を指すことが多いです。


 具体的には、おとなしくて社交的でない人や、自己表現が少ない人を意味することが一般的です。ただし、この言葉は時には否定的なニュアンスを含むことがあるので、使う際には注意が必要です。明るくて社交的な人を表す「陽キャ」(陽気なキャラクターの略)とは対照的な存在として使われることがよくあります。


 えっ、全然違うじゃん。

 てっきり陰キャは「ド腐れ外道畜生の俗称」で、陽キャは「エブリデーパリピーポー」かと思ったのに。

 これって単純にインドア、アウトドアじゃん。


 なんかネットの用い方とズレてる気がするな。

 ネットの陰キャイメージってさ、陰湿・・なんだよね。控えめ、目立たない……とかじゃなくて、考えることエゲつなくて、自分の考えにうっとりするというか。

 陰キャ(陽キャ)にも多分いろいろタイプがあるんだろう。

 見た目が陰キャ(垢抜けてない、着崩せない)、振る舞いが陰キャ(大人しい、会話が苦手)、心根が陰キャ(ひねくれ者)……みたいに。

 で、GPT-4が示した意味合いは上記の中の見た目、振る舞いだったんだよね。でもネットで大体槍玉に上げるのって最後のヤツじゃん。


 ネット小説の中でも、スクールカースト頂点の陽キャ達が主人公(陰キャ)をいじめて愉しむシーンがあって「お前らが陰キャやんけ」「本当に陽キャならいじめなんてしない」みたいなコメントが出てくる。

 ここらへんのズレもタイプが混じってるからなんだろうな。


 自分の経験から言うなら、性格が(陰キャ的に)歪む根本的な要素は「自分に自信がない」、ここに尽きると思っている。 

 自信がないから堂々と立っていられない。相手に(存在しない)敵意を感じ取り、勝ち負け(有利不利)で物事を受け取る。負けに対して尋常でない怯えがあり、延々と不毛な延長戦を仕掛けるか、捨て台詞を放って上手いこと「負け」にならないよう頑張る。

 別にインドアなだけなら、自信のある人物はいくらでもいるだろう。オタクなんて自分の知識(愛)に自信がなければ務まらないだろうし。


 大体、会社(学校)での姿と、プライベートの姿が一緒なのかというのも謎だ。

 陽キャだって常にパリピーポーしてるわけではなかろう。カースト頂点で友達一杯でも、家に帰れば赤点テストで親に平謝りしてるかもしれない。そんな親だって職場では陰湿な上司にペコペコかもだし、その上司は愛娘に対しては明朗快活なじいちゃんなのだろう。

 たかが一個人にも姿が多くある。上記のTPOだけでなく、ジョハリの窓に挙げられるような「本人しか知らない」「本人だけ知らない」姿もある。

 それをすべてひっくるめて「陰キャ」「陽キャ」とタイプ分けするのは、やはり強引過ぎる。呼ぶ側からすると楽かもしれないが。


 となると、陰キャ(陽キャ)というのは、悪VS善、無能VS有能に連なる二項対立の道具と考えるべきなのだろうか。

 つまり「そいつが陰キャなのかは正直どうでもいい・・・・・・・・が、そう定義しておくことで盛り上がるから」なのか。決めつけのように「陰キャ」と言っておけば全部収まるみたいな、そういうものなのか。


 おそらく、そんなに真面目に考える必要はないのだろう。

 あくまでカジュアルな悪口、煽り文句の一種。「バカ」というと子供っぽすぎるので「陰キャ」と呼んでおくみたいな、そういう。

 笑えない所業をした犯罪者に「バカ」とか「陰キャ」と呼ばないのと一緒だ。


 ただ結局今のところの使い方では「陰キャ」は悪口(劣っている属性)だ。本来のインドア、例えば読書を嗜む人が「私は陰キャです!」とは言わないだろう。

 悪口の言い合いというのはプロレスだ。ちゃんと加減しないと酷いことになる。後腐れを残さないよう煽らないといけないし、受け身を取れる相手を選ばないといけない。

 気分の良い煽りには、交友経験と信頼関係が問われるのだ。そういう意味では「からかうのが得意か下手か」は陽キャと陰キャを見極める観点かもしれない。(攻撃力に全振りして、防御力が全くない人もいるが……)



 ここまで陰キャについてまとめてみた。

 たかがネットスラングひとつに、と思われるかもしれないが、この言葉を見かけるたび「やっぱり自分みたいなやつはダメなのか……」という感傷がチクリと刺すのだ。

 陽とか陰とかどうでもいいじゃん、自分に自信さえつければ気にしなくなるよ、というアドバイスは分かる。自分でまとめてみて改めて思った。完全な・・・陰キャなんていない。

 でも、完全に振り切ることは出来なくて、ずっとモヤモヤするのだと思う。

 おそらく陰キャの中には、陰陽という対比の他、地味であったり、日陰者であったり、陰湿であったり、様々な感情(願望)が込められているのだ。

 栄光を受けられず、地中でひっそりと過ごしている。お天道様の下にいられる時を夢想しながら。


……そういう悲劇性に酔ってしまうあたりが陰キャなのかもしれない。

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