あとがき 父親




「そういえば築ノ宮つきのみやさんは何となく黒ちに似てるよね。」


最近は鶴丸と黒高は新しい仕事場にも慣れて

徐々に仕事が増えて来た。

満知はその手伝いをしながら通信制の高校の勉強を始めていた。


夕食を皆で食べている時だ。

鶴丸と黒高はビールも飲んでいる。


「えっ、築ノ宮さんと?」


黒高は驚いたように言ったが、

以前商店街の会長にも同じような事を言われたのだ。


「いやー、あんな綺麗な人と似ているなんておこがましいよ。」


黒高は否定するがまんざらではなかった。


「もしかしたら黒ちのお父さんだったりして。」


満知がちろりと黒高を見た。

その時鶴丸が言った。


「それはねえ、絶対違う。」


強い否定だ。


「そ、そうだよね、白が言っていたけど、

僕達が出来た頃は母さんはモデルと銀行員と

付き合っていたって……、」

「違う、それも違う。」


鶴丸は少しばかり顔が赤い。酔っているのかもしれない。


「なら誰が黒ちのお父さんなの?」


満知が聞く。


「お前らの親父はな、あるじじいの俳優だ。」

「「えっ!」」


黒高と満知は驚いた。


「お、おじさん、それってホント?」

「ああ、マジだ。昔緋莉がぽろっと喋った。」

「誰なの?鶴さん……。」


黒高は息を飲んだ。


「結構有名な俳優だ。

それでなあっちは結婚していたんだ。」

「不倫、なの?」

「そう言う事だな、褒められた話じゃないが。

だがな、緋莉は珍しくマジだったらしい。」


黒高の顔は複雑な顔になった。


「相手は長い間別居していたんだ。

それでその爺さんと緋莉は出会ってな、お前らが出来た。

爺さんは本当に奥さんと別れて緋莉と一緒になるつもりだったらしい。

だがその前に爺さん、ぼっくり逝っちゃったんだ。」

「……、」


黒高は何も言えなかった。


「結構有名なニュースだったぞ。俺でも知ってる。

でもその陰に緋莉がいたとは知らんかった。

それで緋莉とはしばらく会わなかったが、

ある時お前ら連れて店に来てびっくりしたぞ。」

「前の店にだよね。」

「そうだ、その頃は前の男と別れて緋莉一人だったし、

西亀も満知を産んだばかりだからな、

お前らの父親のことを聞く余裕も無かったが、

少し落ち着いた時に緋莉が言ったんだ。」


黒高は複雑な気分になった。


「ならもしかしたら僕の異母兄弟がいるかもって?」

「あ、それはない。

あの爺さんには子どもはいない。お前らだけだ。

それにあの爺さんも一人っ子だったからな、

辿れば血の繋がった人がいるかもしれんが、

今更お前はそれを知りたいか?」

「……いや、今僕が現れても迷惑だろうな。」


鶴丸がちらと黒高を見た。


「俺もそう思う。

緋莉はその気になれば遺産相続とか色々な請求が

出来たかもしれんがそれはしなかった。

揉めたくなかったんだろうな。」


黒高はただ面倒だったんじゃないかと思ったが黙っていた。

緋莉なら金なら働けば良いと言うはずだからだ。


「でも緋莉おばさんも好きな人の子どもが出来たから

嬉しかったと思うよ。」


満知はそう言ったがはっと鶴丸を見た。


「あ、おじさんごめん。」

「けっ、なんで謝るんだ。」

「あの、その……、」


鶴丸は残ったビールを一気に飲んだ。


「もう良いんだよ、黒太がいるからな。」


黒高と満知は顔を合わせてふっと笑った。


「そう言えば黒白の注文最近増えたね。」


満知が黒高に言った。


「ああ、一点物で着物生地とか

ちょっと変わったもので作っているから、

個性的でいいって言われたよ。」


黒高はにこにこと笑った。

それを聞いて鶴丸の口がへの字になった。


「へっ、まずちゃんとしたシャツを作ってからだ。

お前のYシャツはまだ襟元が甘い。」

「えっ、は、はい、努力します。」


ふんぞり返った鶴丸の前で黒高が小さくなる。

その様子はまだ少年のような感じだ。

それを見て満知が笑った。


「まあまあおじさん、もう一杯ビール飲む?」

「お、サービス良いな、明日は休日だからな、入れてくれよ。」


と鶴丸がコップを差し出す。


「鶴さんは休みでも服を作るだろ。」

「だってやる事ねぇし。お前も作れ。」

「えー、」

「もう、せっかく私が話をはぐらかしたのに、

黒ちは相変わらず鈍いな。」

「そ、そうか?」


満知はそう言うと黒高のコップにもビールを注いだ。





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クローズ・西村川 ましさかはぶ子 @soranamu

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