第23話 共に新たな門出を祝して

「ノエ? これは……」

「パルディア公爵家の騎士たちです。ラーキンズ公爵家の騎士たちは……あの男を捕らえることはできないでしょうから。いいよね、エイダ嬢」

「勿論。ついでにそのまま連れて行って。ことが落ち着いたら、引き取りに行くから」

「嫌だ。と言いたいところだけど、監視もしておきたいからいいよ」


 私はちょっと落ち着かなかった。エイダ嬢に対して気さくに話をするノエに。


 ダメダメ! 今はそんなことを気にしている場合ではないのだから。


「リリア?」

「何でもないわ。それよりもルートリ。エイダ嬢と契約を」

「そうだな」


 ルートリはエイダ嬢の前にやってきて、手をかざす。その瞬間、ルートリの縁者である証のエメラルドグリーン色の髪が輝き出した。と同時に私の髪の毛も。


「どうして……」

「精霊士との契約に、愛し子が共鳴したのだ」

「それでは」

「あぁ、これで成立した。爵位とやらの手続きが済んだら、分かっているな」

「はい。ルートリ様だけでなく、リリア王女様の目にも、二度と関わらせないように善処します」

「その言葉を忘れるな。破ったらその瞬間、私もこの家と関わりを断つ」


 もう二度と過ちを犯したくない、ルートリの意思を感じた。それはエイダ嬢も同じ気持ちだったようだ。


「今後、愛し子に危害を加えようとしたら、ルートリ様のなさりたいようにしてください。私は父とは違うところを見てほしいのです」

「それならば、リリアの友人になってはくれないか」

「ルートリっ!」


 落ち着いてから言おうとしたのに!


「よろしいのですか? 私なんかがリリア王女様の」

「エイダ嬢だからよ。私の立場も気持ちも分かってくれているから。それに……これから社交界のことで、色々と教えてほしいの」

「そういうことでしたら、喜んでお引き受けいたします」


 エイダ嬢に微笑まれ、ちょっと気恥ずかしくなった私は、ルートリに視線を向ける。すると、以前のように頭を撫でられた。


「へへへ」

「ちょっと! さすがのルートリ様でも、僕の前ではやめてください!」


 騎士たちに指示を出していたノエがいつの間にか戻って来て、これ見よがしに私を抱き締める。


「まだ婚約はしていませんが、リリアは僕のなんですから」

「ノエ!」


 けれど聞く耳など持たない、とばかりに風が私たちを覆っていく。抗議の言葉を口にしようとしても、風が強くて開けることすらできなかった。



 ***



 そうして到着したのは、パルディア公爵家の庭園。謁見の間から移動した時と同じだったから、見間違えることはない。


「ノエ。いきなりどうしたの? まだエイダ嬢と話があったのに」

「除け者にされたのが嫌だったんです」

「していないわ」


 どうしてそんな勘違いを……と思った瞬間、ルートリとエイダ嬢の契約の場面を思い出した。


「あれは、私がルートリの愛し子だったから、引きずられただけよ」

「……ルートリ様と仲直りされたんですか?」

「そうね。したと思うわ」


 私のお願いを聞いてくれたのだから、もう仲直りをしたと判断してもいい。ルートリもそのつもりがあったから、エイダ嬢と契約してくれたんだろうし。

 勿論、アルデラーノをどうにかしたかったのもあるんだろうけれど。


「……そしたらまた、ルートリ様の助言を受けるんですよね」

「あっ、うん。そう、なるわね」


 再び王城へ行き、謁見の間でお父様に伝える。そこには当然、お母様もいるわけで……。


「夜中に、突然リリアが消えたら、僕はどうしたらいいんですか?」

「へ?」

「ルートリ様の領域に行ったのか、攫われたのかも分からないんですよ!」

「そ、そうね」


 私の体ごとルートリの領域に行ってしまうから。


「僕は嫌です。結婚したら一緒のベッドで寝るのに」

「っ!」

「夜中、目を覚ましたらリリアがいないなんて、考えたくもない」

「ノエ……でも私は愛し子だから」


 仕方がないのよ、と諦める言葉をグッと呑み込んだ。ラーキンズ公爵家のことだって、ノエがいたから乗り越えられた。愛し子の制度だって。

 それはノエも思っていたらしい。


「こうなったら、味方を増やして制度を変えてみせます!」

「本当に?」

「言いましたよね。情報は力だって。僕も今後、エイダ嬢と同じく爵位を継いで、公爵になります。今回のことでエイダ嬢には借りを作りましたから、残るは二つの家門のみ。四大公爵家の力ならば、十分、戦えますよ」

「そうなったら、私も社交界で頑張らないとね。自分のことなのに、ノエばかり頑張らせるわけにはいかないわ」


 怖いけれど、エイダ嬢が友人になってくれたんだから大丈夫。何より、ノエが傍にいてくれるから。


「リリア!」

「キャッ!」


 すると突然、ノエに抱き締められた。


「あぁ、何でそんなに可愛いことを言うんですか」

「言ったかしら?」

「言いました。だから、お礼をさせてください」

「へ?」


 お礼? ナニヲイッテイルノ?


 けれどノエの言葉の方が早かった。いや、行動が。


「好きです、リリア」


 気がつくと、唇が触れていた。初めてキスをした時と同じで、長く深い口づけ。

 庭園に咲く花々に見つめられながら、私はノエの背中に腕を回し、そのまま身を委ねた。




――――――――――――――――――


 ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

 中編コンテスト参加作品であるため、ここで一旦完結とさせていただきます。

 

 まだまだ婚約に至る経緯、社交界デビュー、四大公爵家の団結、王妃との直接対決を経て、結婚……。

 鉄壁天然リリアは、新しい世界に目を輝かせるでしょうが、独占欲の強いノエは……心配で堪らないでしょう。

 折を見て、続編の執筆をしたいと思いますので、気長に待っていただけると幸いです。

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精霊に愛されたハズレ王女~再会した幼なじみに溺れるほど愛される~ 有木珠乃 @Neighboring

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