第6話『喪葬』

いくら時間が経ったのだろう。

叫び続けて喉が枯れ、水を頼むと手にコップを握らされた。ちゃんと発音できたのだろうか。

あれからずっと、今自分は目を閉じて、耳を塞いでいるだけだと自身を騙し続けている。


これから私は触覚を失う。

あぁ、愛しき触覚よ。それがなくなってしまったら、いよいよ私は人間でなくなる。

何も聴こえず何も視えず何も感じない。

それは生きていると言えるのだろうか。

これは生きながらの死だ。

死刑より重い罰、私の罪は。


そして、最後の時が来た。

私の手に突然皺だらけの指が文字を書き出した。


《最後だ。》


…。


やがて私は浮いた。空に浮くとはこういう事を云うのだろう。素晴らしい開放感だった。

思考の自由のみ与えられた胎児の様に、私はただただ感情と記憶を反芻するだけの機械となった。


私はもはや、耐えると云う事を忘れた。




「亜希子。あんたが映画見た話とかどうでもええわ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

感錮刑 掘故徹 @saketoba5te2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ