第5話『視覚』
いよいよ今日、視覚を失う日だ。
触覚とも考えたが、それではもはや動けなくなるだろう。簡単な歩行でさえ、触覚がないと生まれたての子鹿の様に転んでしまうのだ。ともすれば歯を食いしばりすぎて、砕けてしまうかもしれない。歯というのは意外と脆いものなのだ。
怖い、視覚さえも失ってしまったら、私は一体どうなるのだろう。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
もはや看守の足音は聞こえない。突然目の前に現れた監守はあの魔の言葉を吐いた。
「今週は、何にする。」
私は恐れながらも、妻のことを思い出し、勇気より暗い何かを振り絞り答えた。
「…視覚。」
…。
見えない。見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えない見えな
コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
子供の頃の、いつも目を瞑れば暗闇に、後ろに、何かよく分からない恐ろしいものが立っている、という妄想が蘇る。
目を開けているのに、暗闇。
必死な叫んでいるのに、静寂。
私は走った。
壁に辿り着くと一目散にそれに張り付いた。
落ち着く。何かに挟まれていたかった。
とにかく誰か、何か、なんでもいいから私を守って欲しかった。あの忌々しい娘を殺した男でさえ、あれが声をかけてくれたら。肩に触れてくれたら。どんなに安心するか知らない。
見えないが私は今壁の隅で蹲っているのだろう。目の前に何か恐ろしいものが立って私を見ているのではないかと思うと、寒気が止まらなかった。
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