第4話『告白日/聴覚』

今日は2度目の告白日だ。とはいえ話す事は面会の時に出た言葉をそのまま話すだけ。


「…というわけで彼を殺しました。」


「…うーむ、そうか。不思議だな、君みたいに落ち着いた男が残虐なやり口をするなんて。」


「私は今落ち着いているだけですよ。監守さんだってカッとなること、あるでしょう。」


「うーん、とは言ってもねぇ。どうだい君の奥さんにも、もう一回話聞かせて貰えないかな。」


まずい、このパターンは妻が、亜希子が疑われてしまう。そんなことにはさせない。亜希子は私が守らねば。


「人は見かけによらぬものですよ。多重人格ってあるでしょう。あれ実はどんな人でもそうなんだそうです。人は状況によって人格を使い分けます。家族といる時、仕事で部下や上司と話している時、一人でいる時。そうやって正しい場面で使い分けられないのが多重人格と診断されるらしいです。」


「へぇ〜!なるほどなぁ、面白いこと知ってるね君。」


「私がやりました。ちゃんと信じてください。」


「犯罪を犯したのに、そんな自信満々でいられると、困るね。ちょっと反省しなさい。」


「え?あ、ちょっと!」


私は懲罰房行きとなった。あの物腰柔らかな監守を舐めていた。しかしこれで私の罪は裁かれる。


         ◇◇◇


また数日経って、今度は聴覚を失う日になった。


「今週は、何にする。」


「…聴覚で。」


ブツ。

という音を最後に辺りは静寂に包まれた。

何も聞こえない。人は生きている限り音を聞かないわけにはいかない。必ずどこかで音がする。

しかし、無音。


壁を叩いても、叫んでも、自身の心音でさえも何も聞こえない。

その内、叫ぶことがやめられなくなる。

しかし音は聞こえない。

完全な、静寂。


気が狂いそうだった。耐え難い不安が胸に押し寄せてきた。初めから聞こえなかったらよかったのに、と思うほどである。音のある世界がどんなに安心するか、聞きたい、聞いて安心したい。妻と、娘の声を。


その内、解決策を見つけた。本を読む、そうすれば少しでも気が紛れる。ストーリーを頭の中で展開させたり、擬音を頭の中で再生すると、少し不安が減った。


しかし今はいいが、いよいよ目が見えなくなったら。私はどうなってしまうのだろうか。

耐えきれず、懇願してしまうかもしれない。

そして、秘密を喋ってしまうかもしれない。私はここから釈放される方法をたった一つだけ知っている。

しかしそれは、酷な裏切りである。

それだけは絶対にしてはいけないのだ。

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