第3話『味覚』

私は私の犯した罪を受ける。そう決めたのだからそうするのだ。私が罪を犯した時妻は黙って見ていただけだった。妻は悪くない。


今日は『味覚』だ。

嗅覚を失ってからもう一週間も経つのか、という印象だった。正直嗅覚は現代社会においてあまり重要でないのかもしれない。

またあの冷徹な監守が来た。


「今週は、何にする。」


「今度は…味覚で。」


ブツ。

毎度毎度一体どんな科学を用いて感覚を消しているのか謎だが、コレで味覚は消えた。

しかし…


「…あまり変化はないな。」


食べて見ないと案外分からないものだ。

早速カレーを頼む。

銀のスプーンを握り、ひと匙。

痛い。

旨味という旨味が消え失せ、残るは辛味のみ。「辛い」は痛いと熱いが合わさったもので味覚とは違うと聞いてはいたが…。

食べるのが辛い。

水を飲むと味が変わらなかった。

なるほど、水には味がないのだ。

よくCMで美味い水なんてのが流れているがあんなものは嘘っぱちであったということだ。


         ◇◇◇


味覚を失ってから数日、食への興味が失せた。正直気が滅入る。味のしない食事がこんなにもつまらないとは。

何を飲んでも水の味。熱さや食感である程度楽しめはするものの、肝心の味がないと全ては無駄だ。

最近イライラすることが増えた。

頼んでみると、精神安定剤がもらえた。

これからは食事はサプリで済ませることにする。もう味のない固形物や流動物を食べるのはこりごりだ。


暇なので音楽を聴くことにする。次に失う感覚は聴覚と決めている。その前に、心ゆくまで聞いておくのだ。

オペラ、ゴスペル、讃美歌、ヒップホップ、邦楽から洋楽に至るまで、様々な曲を聴いた。が、私が本当に聞きたいのは娘の、あかりのあの鈴を転がした様な美しい声だった。

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