HAPPY END
終わった。全部、終わったのだ。
彼氏は自身に取り憑いた化け物と共に死んだ。
もうとっくに息絶えていることは、目の前にぐったりと横たわる身体と開ききった瞳孔が物語っている。
殺してしまった。けれど、これでよかったのだ。
もし生き続けていたら犠牲者はもっと増えていただろうし、きっと私もいずれ耐えきれなくなって発狂していただろう。所詮時間の問題だったのだ。
それに、これからもずっと殺人鬼の彼氏と生活を共にするより、刑務所にいたほうが穏やかな日々を送れるはず。やっと、解放されたのだ。一気に肩の荷が下りた気がした。人を殺したというのになぜだか心は晴れやかだった。
―――嘘だ。
少しも心は晴れない。理不尽に対する虚しい怒りと、愛する人を失った悲しみだけが、私の心に巣食っていた。
引っ込んだはずの涙がまた込み上げてくる。
死んでほしくなかった。殺したくなかった。
それから、ちょっとの間一人でしくしく泣いた。
「電話しなきゃな…警察に」
いい加減泣き疲れて、ようやく少しずつ落ち着いてきた。ふらつきながらも立ち上がって、スマホを取りにのろのろ歩き出した、その時。
ごとん。
何か重いものか地面にぶつかったような音がした。背後からだ。私は今、彼氏の遺体に背を向けて立っている。
え…?
ゆっくり、首を回して、恐る恐る後ろを見た。自分の鼓動が急速に早くなっているのがわかる。
しかし、何も変わったことはなかった。彼氏は一ミリも場所を移動していないし、相変わらずその目は虚空を見つめている。
気のせいか。
安心して、また足を進めようと、したのだが。
ごとん。
ごとん。
ごとん。
ごとん。
ごと、
ごとん。
ごとん。
ごとん。
ごとん。
ごと。
―――なに、これ。
もう、これは聞き間違いや気のせいではない。
背後で音が鳴り続けている。
覚悟を決めて、ばっと勢いよく振り向いた。
でも、何一つ変わっていない。
何一つ、おかしいところはない。
何故?
恐る恐る彼氏に近づく。しゃがみ込んで、顔に手のひらを近づけてみた。やはり呼吸はしていない。
胸にも耳を当ててみる。やはり心音は聞こえない。
間違いなく死んでいる。はずなのに。
そこで、目が合った。
言葉通り、目が合ったのだ。私の目と、死んだはずの、彼の目が。
は…?
先程まで虚空を見つめていた黒く濁った瞳が、真っ直ぐ私を見ている。見ている。見て、いる。
本能的に、これはまずいと思った。
さっき彼氏を刺した時、彼が倒れるのと同時に引き抜いたナイフが、手元にある。もう一度それを握って、力強く胸に刺した。
なのに。
彼の目は私を見つめたままだった。
表情は無く、ただ目だけが明確な意思を持って私を見ている。
次の瞬間、彼の顔が少し歪んだ。
口が動き出すのが、まるでスローモーションのように見えた。次に声が発されたのかそうでないのかは、私にはわからなかった。
「
こわい彼氏 隣乃となり @mizunoyurei
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