ぞっとする短編怪談『浮遊する生首』

redrock

『浮遊する生首』

全て実話です。


僕が大学に通っていた時の話です。


新聞配達員のアルバイトをしている同じゼミの友人から、「帰省するのでその間、俺の代わりに朝刊だけ配達して欲しい」と頼まれました。他のバイトと掛け持ちなので体力的にきつかったのですが、1か月間だけという約束で引き受けました。


配達先は自宅アパートの近所なので土地勘はありましたが、念のため事前に配達所を訪れ、地図をもらい原付バイクで一通り回ってみました。


そして配達初日、深夜に折込チラシを新聞に挟み込み、夜も明けない冬の早朝に配達所を出ようとすると社員さんから、「あの新築マンションはオートロックで各部屋に配達できないから、エントランスの郵便受けに新聞を入れるように」と注意がありました。


「それと・・・」と言いかけなぜか彼は口を閉じ、出発の時間が迫っていた僕は何も訊かず原付のキーを回しました。


早朝の風は冷たく身を切るような寒さです。

慣れない新聞配達に苦労をしながらも何とか順調に配り、新築のマンションを残すだけになりました。


そこは部屋数の多いマンションで郵便受けも多く、しかも節電の為かエントランスが暗く部屋番号を間違えないよう慎重に確認していると・・・



後ろから強い視線を感じました。



ゆっくり振り向くと・・・



エントランスの隅で野球帽を被った若い男がこちらをじっと見ています。

僕はマンションの住人だと思い、頭を下げ「おはようございます」と挨拶しました。


すると野球帽を被った若い男がゆっくりと近づいて来ます。


僕はその男を見て絶句し、持っていた新聞の束を全て床に落としてしまいました。



その男には身体が無かったのです。



首だけがゆらゆらと空中を浮遊しながら近づいて来ます。



満面の笑みを浮かべながら・・・



僕は口を開けたまま腰が抜けその場に座り込んでしまいました。


若い男がゆっくり近づくと、目線を合わせるように生首が下がってきました。


そして僕の顔をじっと見つめながら、まるで品定めをするように右へ左へと移動します。恐怖とこの現実に理解が追い付かず目を閉じることも出来ません。


そして真正面で止まると生首の口が開きました。


「お前は俺が見えるのか?」


言葉は聞こえませんが口の動きでわかります。


「もう一度言う。お前は俺が見えるのか!!」


僕は激しく顔を左右に振ると落ちた新聞を拾い、這うようにしてエントランスから逃げました。



その日に配達員を辞めました。



配達所と友人には心から申し訳ないと思いましたが仕方がありません。



あれから数日後・・・



生首が被っていた野球帽に、NとYの文字が重なっていたことをふっと思い出しました。


テレビで日本人メジャーリーガーの活躍を見ると、今もあの浮遊する生首を思い出します。



なぜ生首が僕の目の前に現れたのかは今もわかりません。



噂ですがあの新築マンションはなぜか引っ越しが多いそうです。



©2024redrockentertainment





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぞっとする短編怪談『浮遊する生首』 redrock @redrock5555

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画