怪獣

パンチ太郎

第1話

 ある町のある小学校のグラウンドに、白い球体が落下した。白い球体の大きさはおよそサッカーボールくらいであった。夜の出来事だったので、気づくものは誰もいなかった。

 次の朝、白い球体がグラウンドに落ちていることに気づいた少年たち。固さは、あまりなく、ほとんど、ボールと同じであった。やわらかく、ぷにぷにしている。地面にバウンドさせても、割れることなく、また、白い球体を衝いた音が、ボールと同じ感触だったため、少年たちはボールと判断し、ドッヂボールをしたり、サッカーをしたり、バスケットボールをしたりして遊んだ。ただ、投げて遊ぶにはつるつるしすぎて、投げにくいので、バレーボールやキックベース、サッカーをすることに落ち着いた。だが、見慣れないボールで遊んでいることに気づいた教師、谷口は少年たちに尋ねた。

「このボール。どこにあったの?」

「運動場の真ん中にあったよ」

「でも、このボール、教室のボールじゃないね。何も書いてないし。」運動場で使うボールには、マジックペンで運動場用 1-1などと書かれており、この白い球体にはペンで書いた後どころか傷一つついていなかった。

「ボールで遊ぶときは、教室のボールを使おうね。」

「はーい」と言って、谷口は白い球体を職員室に持って行った。

 次の日、職員室に出勤した谷口は、落とし物箱に入れていた、白い球体に穴が開いていることに気づいた。

「誰が、いつこんなことを?」白い球体の周りに穴をあけるようなものは特に見当たらなかった。谷口は防犯カメラをチェックした。だが、どのカメラにも、昨日のうちに侵入したものは見当たらなかった。そもそも、なぜ犯人は、ボールを持ちだすでもなく、わざわざ、穴をあけるだけにしたのか、謎が深まるばかりだった。

 谷口はこのことを校長に報告した。そして、臨時集会が行われ、全校生徒が体育館に集められた。

「ええ、諸君の中に、職員室に侵入し、落とし物箱の白いボールに穴をあけた疑いがあります。今からうそ発見器で一人ずつ、先生含め調べるので、1年生から順番に、保健室で検査を受けてください。」

校長はそう言って、学校にいる全員、休んでるものも含め精巧なうそ発見器にかけたが、該当者は一人もいなかった。そして、職員室で

「うーん、被害者はいないから、大事にすることもなかったんだが、職員室には見られてはいけないものもあるからなあ」犯人捜しは迷宮入りしてしまった。

 その日、この地域のどの家庭でも、地方紙の話題で持ちきりだった。今月は例年に比べて極端に魚の量が少ないのだそう。地球温暖化で魚の量が減っているとはいえ、今が旬の魚も不漁となっている。それどころか、魚のえさもバクテリアも減っていった。当然卵の量も減っていた。主婦の井戸端会議でも、職員室でもその話題だらけであった。この山間部にある地域は港まで大分距離があるので、魚の値段が上がるのは死活問題である。

「中元先生は、実家暮らしなんですか?」谷口は教育実習生の中元に話しかけた。中元は鼻の下を延ばしながら「は、はい。」と答えた。

「じゃあ、魚の量が減ってもあまり、関係ないわねえ。」

「い、いえ、友達と寿司屋に言ったりするので」

「そうなんですねえ」

 中元と谷口は午前の授業が終わった後、給食を食べようとしたが、ある異変に気付いた。明らかに給食の量も減っているのである。

「あれ?なんだか、少ないですねえ。それに温野菜が少ない」

 給食センターの説明によるとどうやら、食費の急激な高騰と、電力の不足が原因だった。近くの農場も不作が続いてるらしかった。

「変ですよねえ。給食センターは民間企業だから、倒産何てあったら困るし」

「私の住んでるところはそんなに物価は上がってないらしいですよ。」

「え?」この地域では地産地消が推奨されていたが、こうも食糧不足が続くとそうも言ってられないようである。町長は市長に対して、他の街からも食糧を供給するよう求めたが

「どこの街も今大変なんだよ。まあなるべく送るけど、そっちでもなんとかしておけよ」と答えが返ってきた。

 続いて、電力不足と水不足がおこった。水は近くの小川を流れて、水道局が供給するが、海の魚の量に続き、水の量まで減っていた。当然、1級河川に流れる水も減っていた。

 人々は日中の作業にも支障をきたし始めていた。パソコンの調子がおかしくなったり、停電をたまに起こしたり、冷房がつかなかったりした。

「はい。ここの言葉分かる人ー」谷口は子供たちの前では明るくつとめた。教育実習生の中元は谷口のことを見ていたが、子供のことはさっぱり関心がないようで、休み時間に鬼ごっこに誘われても、用事もないのに、忙しいから、と断っていた。

 そして、体育の授業中に事件は起こった。教育実習生の中元が谷口に体育倉庫からボールを運んでくるよう頼まれた道中で何もないところで転んだのであった。そして、中元は地面に手をついたときに気づいた。地面がかすかに揺れていることに、そして、ざざっと音が聞えた。そのあと、強風が、いや、何かの衝撃派が、あった。近くの大樹が、不規則に揺れていた。風の影響ではない。そして、ずしーんと音が鳴った。中元は音のする方向に顔を向けた。すると、空間が大きなシルエットを形作ったあと、その大きな音の正体が姿を現した。がそこには、怪獣としか形容のしようがないものが、こちらに向かって歩んでいた。

 子供たちもその怪獣に気づいた。「怪獣だ!!」というやんちゃな男子がいたり、泣き出す、女の子がいたりした。谷口は

「急いで体育館に逃げてください!!中元先生もボールは置いて体育館に来てください!!」

 怪獣はどしん、どしん、と音を立てながら、進んでいた。怪獣の大きさは小山と同じくらいの大きさだった。その姿を見た校長は

「いますぐ全校生徒、並びに全職員は体育館へ!!」と放送をした。そいつの見た目は、ひどく醜悪で、二足歩行で、トカゲのような見た目をしていたが、にしてはデカすぎる。

 校長はすぐに町長に連絡した。こちらの小学校に向かっている間も、怪獣が通った周りの建物には倒壊や、倒木、などの被害が出ていた。そして、体育館では、停電が起こった。そして、町長は自衛隊に町民の救護と怪獣の駆除を命じた。

「なんで、今まであんな怪物に気づかなかったんだ。」怪獣は中元から見れば、突然現れたように見えたが、既に存在していたのだ。

 怪獣の駆除を依頼された自衛隊は特別チームを組み、任務にあたることになった。駆除方法は爆撃、実弾、ミサイル、による攻撃だった。だが、町民への被害を配慮して、政府に実弾の使用許可を取らなければならなかった。

「住民の避難状況は?」

「ほとんどの住民が3つの小学校に分散して、避難が終わりました。」

「ほとんど?一人残らず避難させなければならない。最後の一人の安全が確認できるまで許可は....」

「実は昨日、数名の行方不明者が出てしまって...」

「行方不明者?捜索状況は?」

「まだ、一人も見つかっておりません」

「そうか.....でも、その住民はどこかで....」そうこうしている間、怪獣はうなりをあげた。そして、口から大量の液体を吐き始めた。津波の被害を受けたことのないこの町では、あっという間に怪獣の吐く謎の液体により、建物は流されてしまった。町は洪水だらけとなってしまった。

 政府はこの被害の報告を受け、大量の冷や汗を流した。

「なんということだ。町が一瞬で....」そして、ついに中元がいる小学校までたどり着いてしまった。そして、怪獣は校舎を壊し始めたのであった。

 人々はパニックになっていた。この地域の住民ではない中元も救助が来るまでは、避難をしている。怪獣の破壊の手は止まらなかった。

 この破壊状況を見て遂に政府は実弾の使用許可を出した。理由は校舎はすでに避難済みであるとの報告があったからだ。

 そして、3機のヘリは、中元たちのいる小学校を目指して飛んだ。

「あれが、怪獣か。よし、怪獣爆撃作戦開始!!」ヘリ部隊の隊長は、数発の実弾を怪獣に向かって放った。しかし、一切効果がないように見えた。

「続いて、実弾使用作戦開始」数十発の実弾が3機のヘリによって怪獣に打ち込まれたが効果はなかった。

「こちら、効果確認できず。続いてミサイル部隊、作戦交代」

「ミサイル発射!!」数キロ離れたミサイル発射場から怪獣にミサイルが撃ち込まれたが、効果はなかった。

「戦車部隊攻撃開始!!」数台の戦車によって、最新式の大砲が撃ち込まれたが、全く効果をあげなかった。そして、怪獣は謎の液体をヘリや戦車に向かって吐き始めた。今度は大量にではなく、ビームを打つように放った。すると、戦車は徐々に朽ちていってしまった。

「戦車が溶けて....」そして、操縦士の姿をむき出しにすると鉄砲水を放った。操縦士は死んでしまった。

「お兄ちゃん」窓から見ていた中元は、兄が死ぬところを目撃してしまった。中元は別に兄が死んでも悲しくはなかった。だが、悲しいふりをしておかないと、頭がおかしいやつと思われるので、悲しむふりをしていた。

 そして、自衛隊の攻撃もむなしく、怪獣によって2つの部隊は壊滅させられてしまった。攻撃の手がやんだ怪獣は透明になり、どこかへ姿を消してしまった。

 救護部隊が到着し、そこで、食糧の供給と仮設住宅の移動が手配された。

「生体反応確認できません。ここに怪獣はいないようです。」人々はヘリに乗って高齢者や子供優先で、市内に移動した。

 生物学者の牧八郎博士はカメラにとらえられた、怪獣の映像を見てこう言った

「トカゲのようなシルエットをしていますが、お分かりのように全く違います。戦車を溶かした液の正体はおそらく、胃液でしょうな。成分表からの解析結果です。洪水の水は恐らく飲んだ海水でしょう。最近のこの地域の水不足、それを飲んで大きくなった。ですが、分からないのは、どこから来たのかです。一応卵らしきものは、襲われた小学校の職員室から見つかりました。この卵からかえり近くの小川に落ちて、そのまま海へそこにいる大量にいる魚や海水農作物や人間を食べて生きたんでしょう」

 博士の説明を聞いていた、町長や防衛庁、政府たちは、駆除方法についての説明を促した。

「生体の機能を奪えばいいのです。この怪獣の場合、体温がとても高い。爆撃をしても、体の中にある貯水タンクは熱することはできません。冷却水で対応しましょう」

「次はいつ攻めてくるのでしょう。」

「おそらく、24時間以内には」

「それまでに、怪獣の現在位置の特定と作戦場所について、対応するよう。」

 そして、次の日、怪獣は目を覚ました。透明化から解除し、巨大な姿を現した。

「冷却水、冷却爆弾、発射!!」当たりの温度は徐々に低下していった。怪獣は戦車に向かって胃液を吐いたが、量が少なく、戦車の破壊は免れた。怪獣は力を失い、数機のヘリを墜落させたが、徐々に小さくなっていった。

「やったぞ。これで危機は去った」

「待て、油断してはならん。私の作った、卵と同じ環境のカプセルに入れるのだ。」そして、白いカプセルに入れられ、ロケットで宇宙に飛ばされた。

 ある町の、ある場所で白い球体は落下した。夜の出来事だったので、気づくものは誰もいなかった....

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怪獣 パンチ太郎 @panchitaro

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