第23話 ブラックマンジュウシスターズフォーティーセブン

 後日、社長が交代し、うちの会社は急にホワイトになった。


 前社長が私的に流用していた会社の資金がちゃんと社員に還元され、給与面や職場環境が改善し、福利厚生も充実した。

 すると弊社に入社を希望する優秀な人材が増え、そうした新戦力のおかげで全ての業務が円滑に回るようになったのだ。


「おめでとう、有真ありま君。見事にうちの会社を浄化してくれたわね。貴方のおかげよ」


 俺の席に箱音はこねさんがやって来て、労を労ってくれた。


 しかし俺は仏頂面だった。


「じゃあ箱音さん、俺に部下の勤怠管理とか作業日報のチェックとかをさせないで、どこかの温泉地に営業に行かせてください」


「うふふ。ダメよ、営業部長。部長は社内でどーんと構えて、部下が動き回るのを管理監督しないと。いつまでも自分がプレイヤーじゃ後進が育たないでしょ?」


 後進なんて育てたくない! むしろ育つな!

 そんなヤツらが育ったら益々俺が営業に行けなくなるじゃないか!


「諦めてデスクワークに専念なさい───と、言いたいところなんだけど……」


 ん? なんだ?

 俺は箱音さんの声のトーンが変化したことを敏感に察した。


「実は、有真君に折り入って相談があるの」


「相談? なんですか?」


「以前、会長には47人の愛人がいて、その全ての愛人との間にお子さんがいるって言ったわよね」


 確かにチラッと箱音さんがそう言及していたな。

 俺は会長の繁殖能力に腰をぬかしそうになった事を思い出した。


「実は……そのほぼ全てのお子さんが問題を抱えているの。それでね、それを有真君に解決して欲しいの」


 正妻の血筋の孫娘も生霊いきりょうになったが、愛人の子供も全員問題を抱えているなんて、災難を呼び寄せる血筋にも程がある。

 会長は前世でよほどヒドイことをしたんじゃないのか?


「それはとても不憫には思いますが、なんで俺が解決しないといけないんですか?」


「今回の件を見込んでの事よ」


「嫌ですよ。これ以上、仕事が増えたら本当に温泉に行けなくなってしまいます」


「それなら安心して。愛人のお子さんたちは全国47都道府県の温泉地にいるの。事件解決の為に行くなら温泉地に行くも同義よ」


「───!!

 なるほど! わかりました、箱音さん! そういうことならこの不詳・堂悟 有真どうご ありま! 喜んで事件解決の大役を拝命いたしましょう!」


「ありがとう。有真君ならそういってくれると思ったわ」


「ちょっとまったっス! 有真センパイ! それならワタシも連れて行って欲しいっス!」


 そこに駆け込んできたのは温美あたみだった。


「どうした、温美?」


「しーっ!っス。有真センパイ、ワタシはここには来ていないっス。ワタシは皆さんの心の中にいる青春の幻影っス」


 はぁ~? 温美は何を言ってるんだ?


 しかし程なくして、俺は温美が駆け込んできた理由がわかった。


草津くさつさ~ん。どこなの~?」


 新社長の湯府院ゆふいん 白咲しろさきだった。


「ちょっと貴方、草津さんを見なかった?」


 俺は机の下にいる温美に一瞬視線を落としそうになったが、寸前で堪えた。


「い、いや。見なかった。温美はここには来ていない」


 そう告げると新社長・湯府院 白咲は心底がっかりした様子だった。


「……そう。どこに行っちゃったのかしら……。もう心配で心配で胸が張り裂けそうだわ。

 迷子になったり、側溝そっこうに落ちて出られなくなり、悪い人に連れていかれたり、もしかして車にはねられたりとかしてないかしら……」


 まったく新社長は温美の事を子犬か子猫とでも思っているのか?


「あ、それと箱音。例の件、コイツにもう伝えた?」


「ええ。今、その話をしていたところ。そして有真部長は快諾してくれたわ」


「よろしい。

 では堂悟 有真部長。愛人の子たちはみんな私と同世代で仲良しなの。問題を解決してくれたらちゃんと感謝するからしっかり励んで来るのよ」


「お任せください、社長。この堂悟 有真にかかればどんな問題もたちどころに解決して見せましょう。大船───いや巨大温泉にかったつもりでお待ちください」


 ふだん太々ふてぶてしい態度の俺が、今日はやけに従順で前向きだったので白咲は「コイツ、何か悪いモノでも食べたのかしら?」といぶかしんでいたが、温美を探すためにこの場を去っていった。


「もう大丈夫だぞ、温美。新社長はいなくなったぞ」


「まったく、ひどい目にあったっス。四六時中ワタシを付け回すので、もういい加減にして欲しいっス」


「それより温美、準備を急げ。すぐに温泉───いや、愛人の子の所に行くぞ」


「もちろんっス。ここにいるといつまた社長に見つかるかわからないっス。ワタシもすぐに出発したいっス」


「うむ。

 ───ああ、そうだ。温美。ひとつ言っておく」


「はい? なんスか、有真センパイ?」


「その~……。あれだ。アレはもう持ってこなくていいからな」


「───アレ? アレってなんスか?」


「アレはアレだ! お前のだ!」


「───っ!!!」


「アレは刺激が強すぎる。本当に息の根を止められてしまいそうだ」


「あ、有真センパイ、ちゃんと見てくれてたんっスか?」


「当たり前だ!!! あの時は緊急だったのでそれどころじゃなかったが、後々思い返してみると、とんでもない衝撃を喰らっていたことに気が付いた。もう二度とあんなことをするんじゃないぞ。

 それに───それにあんな物に頼る必要はない」


「……へっ? あ、有真センパイ、今なんて言ったっスか?」


「あんな物に頼る必要はないと言ったんだ!」


「───っ!!!

 そ、それって───それってどういう意味っスか?」


「お前は今のままで十分だと言ったんだ!」


「───っ!!!

 ……あ、あれ? これ、いつもの妄想じゃないっスよね?」


「は、はぁ~? 何を言っている? と、とにかくアレは絶対に持ってくるなよ! いいな! これはフリじゃないからな!

 押すなよ~♪ 絶対押すなよ~♪ は押せの合図♪

 じゃないからな!」


「は、はいっ! わかったっス! 持ってくるなと云われれば手ぶらで後を付いていくっス。ワタシは殊勝で聞き分けの良い後輩社員っス~!」




----------

【後書き】


 私の小説を読んでいただきまして本当にありがとうございました。

 今回のお話はこれでおしまいです♪


 この後、有真と温美は、京都の鞍馬温泉で「温泉に天狗が出没するんです! お客様が怖がって困ってるんです!」という事件を解決したりします。


 このように全国47都道府県で事件を解決していければな~と思っておりますので、温泉協会や温泉旅館組合、温泉に関する関係者の皆様、そして温泉好きの皆様、タイアップなどご協力できることはなんでもさせていただきますので、ぜひぜひご連絡いただけますと幸いです。


 はぁ~、全国津々浦々全ての温泉地を巡ってみたいですね~。

 そんな温泉ドリーマーの私の小説にお付き合い頂きまして本当に本当にありがとうございました。

 ୧(˃◡˂)୨

-----------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

会社の温泉旅行で誰とも喋らずポツンとしている女性に声を掛けたら「あら?あなた私が視えるの?そりゃそうよね。だって私がこうなったのは貴方のせいなんだから!」と睨まれました 柳アトム @Atom_Yanagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ