第4話 汽笛
うぼぉとぉぼぉ うほぉほぉうぅん…………
あれは汽車の
あの誇り高き遠吠えを憶えているのは
もう ほんとにわずかな人々だよ
だれも許さないし
だれにも許されない
そんな時代があったのだ
夜だった 寒さの中に自分しかいなかった
それでも母は わたしを生んだな
世界中の魔物が 実は 本当は
いのちを思ってくれていた
それでなきゃ あんな闇の中に
ちいさな
なかった
よく そこにいてくれたよ
だから わたしは今 ここにいるんだよ
わたしが少し大きくなったある日
母はわたしの兄を家に残し
わたし一人を連れて
自分の実の父を探して
夜汽車に乗った
母の親は母を生んで亡くなったから
母は自分の命の
見たことのない父に求めたのだ
会えなかった 見つからなかった
汽車の黒い雄叫びを聞いたのは
その時だった
母はいつも
あの汽笛を聞くと帰りたくなる
と言っていた
帰る
いのちは 遠い遠い所から来て
とおい とおい ところへ
去ってゆく
なぜ
とか
なんのために
などと
いのちに問うてはいけない
だれかのための いのちなどない
いのちはいつも
そのいのちのためにある
わたしの耳の底
今も残る
いのちの
うぼぉとぉぼぉ うほぉほぉうぅん…………
玄の讃歌 ふみその礼 @kazefuki7ketu
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