第2話  夕照


風に連なる歌は何色なるか

幻灯と見紛みまごうささやかな夕焼けが

西の空の風見鶏の屈託くったくをすり抜けて

今 この部屋の壁にたどりつく


汚れた壁に張りついた

ちいさな光の肢体

この世の何ものかを

逆さまに映しだす


逆さまに吊るされてしか生きられなかった

良き人のこころ


それは吊るされた鶏の

斬首へのひとときの輝きと

讃えられた


この世界への

初めの産声うぶごえは許されても

終わりのひと言は誰にも届かず

部屋の隅の塵埃ちりほこりとともに

捨てられ消えていく


その声は

自らの命への感謝に過ぎなかったのに


人は いつまでも いつまでたっても

そのことを思わない


ひとつの命が生まれると

人のふりをした声が寄ってたかって

終末へ向かう道をささやく


人は 本当は 

生まれたくなかったかのごとく


だから どこかで

命が大量に削り取られ

消し去られても


それは ただの数字として

なんの思いもなく

目の前を通りすぎていく


命は気づいているのに

人のこころは目をそらす


その悲しみが


人の涙ではないのか



いま このとき

壁に消えてゆく


この光



ひとよ


おまえは


何を見ているのか



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