玄の讃歌

玄嶺

第1話 炭火


炭が燃えている

いま遠くに連なる道はない

闇の底

炭が燃えている


そこにある火のメルヘンは

誰に出会えばいいのか

誰をほふればいいのか分からず

立ちすくみ ただ

自らの火の粉をもてあます


炭が燃えている

闇の底にいる そんな気がしてる

ぱちぱちとはじけ続けてるのに

ほんとうは この世界には

この音を聴いている人はいない


人が聴いてくれるのは

もう その人が終わる

ほんの刹那だ


ただあてもなく通りすぎ

悲しみが両手に持ちきれなくなると

人は膝をつき

ただ一度 この炎の中で

がっくりこうべをたれる


誰のためを思い

歩いてきたのか わからない

そうだよね

見失うために歩いてきたみたいだ


炭は炎を讃え

炎の中にやすらぐ


あなた

終わりが来たのですか

あなたも

美しかったことを思いだす


この世界に出会い

この世界を見つめ

幻であった思いを受けとめ


その幻の中に

ちいさな願いを見いだせたこと

それがどんなにかうれしいのです


あなたとは

不思議な出会いでした


あなたが落としていった

言の葉を

燃やして つくして


いつか星に帰ってゆく

その目に見えぬ光を

見送ってあげること


それが

わたしの務めです

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