高架上から京都の町へ

第11話 そして、新幹線で京都に戻る。

 石村教授と八木青年は新大阪駅に降り立ち、新幹線ホームへと向かう。

 ほどなく、別のホームに白ベースに軽やかな青のツートンカラーの6両の電車が別のホームを通過していった。

 これが新快速電車。京都―大阪間を30分で結ぶ。阪急や京阪といった競合私鉄に勝つべく投入された列車である。当時は新大阪さえも通過していた。

 新快速が新大阪に停車するようになったのは、1985年春からである。

 かつて急行用として使われていた電車だが、新幹線の延伸で徐々に急行運用から外れて関西圏の高速輸送に転身させられている。岡山開業前にはその色のまま急行列車に使われたこともあるという。


 新快速電車を他のホームに見ながら、彼らは橋上駅となっている2階に上り、新幹線ホームへ向かう。すでにこだま号はやってきていた。どうせ乗るのは京都までであるし、特に食堂で食事をとるほどのこともない。

 こだま号の乗車効率はひかり号に比べてすこぶる悪い。短距離移動の客向けの列車であり、かつての急行列車程度の区間移動をする客のための列車としての位置づけもされている。そういうこともあって、ひかり号に比べ自由席も多い。

 現にこの列車、乗客は4割程度。先のしおじ号ほど空いているわけでもないが、お世辞にも満席には程遠い。短距離移動の客か、さもなければあまり急ぐ必要のない客のための列車ということ。

 12時15分の定刻にこだま号は発車した。1067ミリの狭軌を採用している在来線と違ってこちらは1435ミリの標準軌を採用しているため、車体が大きく車内は広い。加減速はそれほど良くないが、いったん走り出すと200キロくらいは優に出るのがこの電車。程なく加速し、京阪間を爆走していく。

 さっき乗ったかと思えば、あっという間に減速を始めたこの電車は京都の街へと入っていく。東寺を見ながら、ホームに滑り込む。12時32分着で34分発。いくらかの降車客があるとともに、それと同等程度の乗車客もある模様。

 しかし同じホームにはそれ以上の客が列車待ちをしている。次の12時44分発のひかり68号に乗車すれば東京には50分も早く、名古屋でさえも4分早く着くのである。

 ひかり号の混雑を避ける客やひかり号の停まらない横浜への客などは、おおむねこだま号に乗ることとなる。だが、このこだま号に乗り換えるとすれば京都ではなく名古屋だろう。そのあたりの「緩急結合運転」を新幹線は徹底している。

 当初は今日とも新横浜同様ひかり号を通過させる計画もあったようだが、さすがに御所もあり大観光地でもある京都を通過させるのは、となって全列車停車することとなった経緯もあるようだ。

 それにしても、横浜という街は新幹線の恩恵をもう一つ受けられていない。駅は町はずれの新横浜、しかもひかり号は停車しないのだから。なお後に新横浜もまた新神戸同様ひかり号はもとより現在ののぞみ号も全列車停車駅となっている。


・・・・・・・ ・・・・・ ・


 石村教授と八木青年は京都駅の新幹線改札を通って京都の街中に出た。9月下旬でかなり涼しくなってきてはいるが、まだまだ暑さも残っている。彼らは駅前から市電に乗って大学まで戻った。


「ほな、ハチキ君、この度はおおきに。今晩はうちに来な。一緒に晩飯を食おうではないか」


 八木青年はいったん下宿に戻り、その後石村教授宅に向った。教授宅に招かれたことは何度かあるという。この日も八木青年は、特攻隊で戦死した教授の弟の仏壇に手を合わせ、教授の家族らとともに酒をたしなみながら夕食を共にした。


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空席だらけの特急列車 与方藤士朗 @tohshiroy

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