第27話 業火の攻勢
西暦2035(令和17)年10月19日 フロミア大陸中部 アズラ平原
その日、アズラ平原にある野戦司令部の空気は緊張で張りつめていた。
ロドリア陸軍の精鋭と名高い機甲師団『赤獅子騎兵団』が接近してきているとの情報が伝わり、陸上自衛隊第16旅団は直ぐに第7師団とエルディア陸軍へ救援要請を伝達。序盤の攻勢に備えつつ警戒を厳にしていた。
「敵部隊は既に複数の街道から大隊規模に分散させて接近しており、複数の戦場で交戦する事を強制させられる形となります。対戦車部隊だけでは明らかに手数が足りません」
旅団司令部にて、ドローンで偵察を行っていた自衛官が報告を上げ、旅団長の
「第7師団の防衛線には別の敵機甲師団が張り付き、エルディア軍も同様の状況に陥っているこれで、突出してきているのか…空自はどうだ?」
「307飛行隊は10機程度なら支援に回せるそうです。ですが敵空軍も戦略爆撃機を含めた攻勢の準備を進めており、こちらに対応する必要があるとの事です」
スヴァン半島占領と飛行場の占領による航空戦力活動拠点の確保からはや2週間。航空宇宙自衛隊の戦力の一部はスヴァン半島に回されており、ここ大陸中央の戦線における航空戦力は不足していた。
無論、エルディア軍という数的戦力もある。だが質の面で大きく劣っており、特に航空戦力は近年になって漸く〈フォーコン〉に対抗可能なジェット戦闘機を実戦配備出来たというレベルだった。
「ともかく、相手はモーギアへの強襲攻撃を契機として反撃に移り始めています。戦線には自衛隊だけでなくエルディア軍もおりますし、今はこの攻勢を耐えきる事を主にすべきでしょう」
「そうだな…」
第54普通科連隊の指揮官である笹田がそう提案し、皆本は頷いて応じる。とその時、無線機の前に座っていた自衛官が振り向いて来た。
「司令、空自より通報です!戦線一帯にかけて複数の編隊が接近中との事!」
・・・
少数の爆撃機と護衛機からなる編隊が複数、戦線一帯に広がる様に展開して迫っているとの情報は、〈E-787〉早期警戒管制機によって明らかとされた。すでに敵機は警戒線を踏んでおり、第307飛行隊はこれを迎撃しに向かっていた。無論、エルディア空軍も同様に防空戦闘に参加しており、迎撃は十分に行える筈だった。
「セイバー3、敵機捕捉。フォックス2」
〈テンペスト〉のコックピットにて、ヘッドマウントディスプレイに敵機を捉えた宮藤は操縦桿の引き金を引き、レーダーで捕捉した敵重爆撃機に向けてAIM-120D『AMRAAM』空対空ミサイルを発射。敵爆撃機は機銃を撃ちまくって抵抗するが、ミサイルは寸分の狂いも無く主翼に命中し、これを引き裂く。
「ボギー1、撃墜。迎撃任務を続け―」
通信を送っていた、その時だった。遥か向こうで閃光が瞬き、遅れて衝撃波が機体を僅かに揺らす。その方向に目を向けると、丘の向こうにて巨大なキノコ雲が聳え立つのが見えた。
「何だ…!?」
『アレは、核…!?』
『えっ…!?』
無線に動揺の空気が満ちる。直後、〈E-787〉より通信が入る。
『スカイキーパーよりセイバー各機、敵重爆撃機は戦線全域に対して大規模攻撃を仕掛けてきた!恐らく戦線そのものを爆撃で崩壊させて、しかる後に陸軍部隊を突撃させるつもりだ!1機残らず撃墜せよ!』
「了解…!」
10機の〈テンペスト〉は分散し、敵重爆撃機へ攻撃を仕掛ける。旧ソ連のツポレフTu-95〈ベア〉戦略爆撃機に酷似した2機の爆撃機は数機の護衛戦闘機を展開して東進しており、それが戦線全体に複数のチームとなって展開しているのである。先程の巨大なキノコ雲からして、どうして少数に分散させて展開したのか、多くが理解していた。
「これ以上、やらせないわ!」
大柄な機体が空中で大きく翻り、一瞬のうちに重爆撃機を撃ち落とす。敵護衛機も必死に抵抗するが、〈テンペスト〉の高性能センサー群は真横や真後ろに位置する敵をも捉え、『サイドワインダー』空対空ミサイルが襲い掛かった。
機械仕掛けの旭日旗~転移編~ 広瀬妟子 @hm80
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