第26話 トネア空襲

西暦2035(令和17)年10月18日 ロドリア共和国本島南東部沖合


 フロミア大陸とロドリア諸島の間に広がるネモフィラ海を、10隻程度の艦船が進む。その上空には4機の〈F-35C〉艦上戦闘機と1機の〈E-2J〉が常駐し、制空権を確固たるものとしていた。


 第5護衛隊群がオルス提督率いる白海艦隊を相手している間にネモフィラ海を西進していた海上自衛隊第1護衛隊群は、2隻の補給艦を連れて遠征を実施。ロドリア諸島最大の港湾都市トネアを射程に収めようとしていた。


「敵哨戒機、撃墜を確認しました」


 第1護衛隊群の旗艦を担う航空機搭載護衛艦「かつらぎ」の戦闘指揮所CDCに、管制官からの報告が入る。艦隊司令官の須藤すどう三等海将はそれを聞きつつ、隣に立つ三田みた艦長に視線を向ける。


「艦長、間もなく攻撃可能圏内に入る。先ずは制空権を確保し、その上で港湾部の敵艦船と軍事施設をスタンドオフミサイルで攻撃。敵軍事拠点の一つを無力化し、ロドリアの戦略を根本から崩壊させる」


「了解しました。攻撃隊、出撃せよ!」


 命令を受け、甲板上に駐機する〈F-35C〉と〈ジークホーネット〉は主翼下や胴体部に増槽と各種ミサイルを装備。電磁カタパルトの力を借りて発艦していく。すでにその様子は敵の対空警戒レーダーに捉えられているだろうが、須藤にとってそれは些事たる事であった。


「スカウト1は当該空域に到着次第、観測を開始。ダカルクで得た情報を基に敵軍事基地のみをスポットせよ」


 三田の指示が飛ぶ中、須藤はただ、モニター上での味方の動きを注視するのみだった。


・・・


港湾都市トネア


「くそ、わざわざ本国に仕掛けてくるとは…!」


 空軍第18戦闘航空連隊に属する〈エクレール〉戦闘機のコックピットで、パイロットはそう唸る。フランスの〈ミラージュ5〉戦闘機を双発機にした様な見た目を持つ要撃戦闘機である〈エクレール〉は、尾翼を垂直尾翼のみとし、主翼を大柄なデルタ翼とする事で、マッハ2で高い旋回や上昇・下降を成す事が出来る。現在はレディロ・ギール社にて新型要撃機の開発が進められているが、本国配備戦力としてはこの〈エクレール〉が数的主力であった。


「すでに海軍航空隊の連中も出張ってきている!奴らに戦果を取られる前に、敵を撃ち落とすぞ!」


 指示に従い、編隊はマッハ2でトネアの空を駆ける。しかしそこに、〈F-35C〉より放たれた『AMRAAM』空対空ミサイルが降りかかり、何機かは急旋回で追尾を逃れるものの、半数以上が何も出来ずに撃墜されていく。


「3番機と4番機が…!」


「くそ、敵のミサイルは強力だぞ!急いで間合いを詰めろ!」


 総数38機の編隊は空襲を仕掛けてきた敵機へ突っ込み、そうして間合いを詰めるや否や、機首の火器管制レーダーで捕捉。一斉に『トネル』空対空ミサイルを放つ。海軍で個艦防空ミサイルとして運用されている『マレ・トネル』のベースとなったこのミサイルは、アメリカのAIM-7『スパロー』空対空ミサイルと同等の性能を持ち、ロドリア空軍の戦闘機が用いるミサイルとしては最新鋭の部類にあった。


 だが、〈F-35C〉にとってそのミサイルは時代遅れであり、即座にチャフを展開して旋回。ミサイルを外すや否や、敵機の背後へ展開。AIM-9X『サイドワインダー』を放つ。〈エクレール〉はフレアをばらまきつつ回避運動を取るが、赤外線画像誘導を採用するX型『サイドワインダー』は難なく躱し、敵機に食らいつく。


 そして港の方に目を向ければ、〈ジークホーネット〉が敵の警備艦やミサイル艇に対して強襲を仕掛け、空対艦ミサイルを放っている。小型の警備艦やミサイル艇はディーゼルエンジンを動力としており、直ぐに港から出航できる。しかも対艦ミサイルも有しているため、直ぐに反撃に出られない様に優先して潰さなければならなかった。


 そして遥か上空では、〈E-2J〉が自身のレーダーで敵軍事基地に目標を定めていた。その情報は艦隊へと伝わり、諸元が入力されていく。


「艦隊、攻撃始め」


 命令が下り、一斉にトマホーク巡航ミサイルが発射。上空からの観測情報を基に飛翔していく。この精密な大規模攻撃を前に、ロドリア側に取れる方策はなかった。


 手始めに、埠頭に錨を降ろしていた駆逐艦6隻に1発ずつ命中。次いで造船所のドックへ4発が降り注ぎ、整備中だった艦艇を問答無用で破壊していく。ミサイルは内陸の空軍基地や陸軍基地にも飛翔していき、市内各所に火柱が聳え立っていく。まさに一方的だった。

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