第25話 モーギア沖海戦

共和暦215年10月17日 フロミア大陸北部 モーギア沖合


「航空隊より報告、『空は我らに有り』とのことです」


 航空母艦「ドクトル・アリオス」の艦橋にて、バルミウス提督はタロス艦長とともに、報告を受けていた。


 ロドリア海軍の主力たる白海艦隊は、複数の戦隊で構成されている。うちクレムス級二番艦「アリオス」を旗艦とする第2航空巡洋艦連隊は、第1戦列艦師団及び複数の水上艦旅団を引き連れ、モーギアに強襲を仕掛けていた。


 無論、モーギア軍も無策で襲撃を受けた訳ではなかった。洋上にはミサイル艇が数隻展開し、空軍基地からもエルディア製ジェット戦闘機がスクランブル。襲撃を目論んできたロドリア艦隊を迎撃しようとしていた。


 だが、「アリオス」の艦載機は最新鋭の〈マレ・トルナード〉艦上戦闘機であり、ミサイルを用いた格闘戦能力においてモーギア空軍戦闘機を圧倒していた。高速で急旋回と上昇・下降を繰り返す〈マレ・トルナード〉は、得物の空対空ミサイルを十二分に活用し、敵戦闘機を次々と撃ち落としていく。


 洋上のミサイル艇も、護衛を務めるカナル級駆逐艦の砲撃によって撃沈されていき、制海権をも得た艦隊は沿岸部に迫る。そうして実力を発揮し始めたのは第1戦列艦師団に属する2隻のリシルズ級戦列艦であった。


 フランス海軍のリシュリュー級戦艦に類似した大型水上戦闘艦であるリシルズ級は、艦首に集中配置された8門の35センチ四連装砲塔より猛烈な砲撃を繰り出し、モーギアの軍港とそこに停泊していた艦艇を破壊していく。それはまさに一方的だった。


「しかし、レベルズ提督もお人が悪い。ニホンの主力艦隊がスヴァン半島に展開した艦隊の相手をしている間に、モーギアに痛烈な打撃を与えて揺さぶるなど…これに対して『陸』と『空』はどの様に反応するのやら…」


 タロスがそう呟く中、バルミウスは真正面を見据えながら答える。


「恐らく、好機と見て攻勢に移るだろう。何せ海軍に戦功を取られる事を気にする者達だ、特に赤獅子騎兵団と空軍の本国派遣部隊は面子もあって動きたがるだろう」


「赤獅子騎兵団…ドラクムス閣下の娘婿のヨハネスが指揮官を務める『お飾り』か。機甲師団といえども、果たしてニホン軍に勝てるかどうか…今はレベルズ提督の本国での采配に期待するのみだな」


 バルミウスがそう答えた直後、通信士が報告を上げる。


「提督、艦隊司令部より最新情報です。スヴァン半島沖合に展開したオルス提督の艦隊は、半数の戦力を撃沈され、撤退したとのことです」


「…やはり、負けたか。だがこちらも相手の完勝は防げた。全艦反転、現海域を離脱する。我々の目的は達した」


・・・


日本国東京都 内閣総理大臣官邸地下


「そうか…ロドリアもタダでは負けるつもりは無いという事か」


 報告を聞き終え、矢口は眉をしかめながら呟く。此度の事態は、戦域がモーギアにも広がっている事を失念していたが故のアクシデントであり、間違いなく動揺が広がる事になるだろう。


『ますます、戦略的な打撃を与える必要性が出てきたな…敵軍の動向は?』


「はっ。先程、機甲師団相当の部隊が戦線へ進出し、第16旅団の担当戦域に展開しているのをUAV警戒網で捉えております。航空戦力にも同様の兆候が見られるため、警戒するべきと存じます」


『フム…では、こちらは敢えて乗ってやるとしよう。JTF司令部に通達、『上手く相手を踊らせてやれ』とな』

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