第24話 第二次スヴァン半島沖海戦④
西暦2035(令和17)年10月16日 スヴァン半島沖合
「ミサイル、複数接近!」
空母「クレムス」の艦橋に悲鳴にも似た報告が届き、オルス提督と艦長は揃って目を丸く見開く。輪形陣を成す巡洋艦と駆逐艦は球形レドームに収められた対空捜索レーダーで捕捉し、対空戦闘を開始していた。
古めかしい連装発射機より放たれる『エタンダール』艦対空ミサイルは低空飛行で迫りくる93式空対艦誘導弾を撃ち落とし、それをすり抜けたものには『マレ・トネル』艦対空ミサイルが対応。速射砲や対空機関砲も用いて重厚な対空砲火によって迎え撃つ。
だが、36発も放たれたミサイル群は対処能力を飽和させ、半分以上がすり抜ける。そして急上昇からの急降下と、そのまま海面を這う様に突っ込むミサイルが、巡洋艦群に襲い掛かった。船体の真横に突き刺さった一撃が巨大な破孔を生み出し、業火が艦内を破壊していく。
「「イタ・ノルツ」、被弾!「ラ・グロワ」、通信途絶…!」
「クレムス」の艦橋内にある通信席より、悲痛な報告が連続して舞い込む。オルス提督はただ席で茫然と座っているだけであり、艦長も顔面を蒼白にしたまま直立する。気付けば艦隊で無傷なのは「クレムス」だけであり、得物たる艦載機も少数の偵察機に予備機体のみとなり、まさに打つ手は皆無だった。
やがて、水平線上に幾つもの艦影が見え始める。それが敵のものである事は疑いようもなかった。
・・・
「敵艦隊、半数以上の撃破を確認。流石にこの状態で攻め押すわけにはいかないでしょうが…」
「いぶき」のFICにて、安本艦長はそう呟き、大沢はモニターを見つめつつ、通信士に顔を向ける。
「…敵艦隊旗艦に対して広域回線で通信を送れ。『貴艦は直ちに残存艦艇と共に洋上に漂流する味方将兵を救助し、現海域より撤退せよ。軍人である前に一人の船乗りであれば、目の前で溺れる同胞の命を救え』とな。通信を送り次第、第10護衛隊はその場で待機。敵艦隊の救難活動を監視しつつ、必要とあらば敵将兵の救助を行え」
「了解」
即座に通信が送られ、艦隊は停止。周囲を警戒しつつ、相手の動向を探る。その1時間後、前衛を成していた7隻の駆逐艦が反転し、沈没する艦艇の乗員を救助し始めるのが確認された。
斯くして、『第二次スヴァン半島沖海戦』にて海上自衛隊第5護衛隊群は巡洋艦8隻と駆逐艦11隻、警備艦6隻を撃沈。フロミア半島南部海域の制海権を確固たるものとしたのだった。
・・・
日本国東京都 首相官邸
「第5護衛隊群は先程、敵艦隊と交戦し、艦艇の半数を撃破。制海権を死守したとの事です」
西田統合幕僚長の報告に、多くの閣僚が安堵した様子を見せる。矢口は
「陸と空の様子はどうでしょうか?海で勝てたとしても、最終的には陸戦と空戦で勝敗を決するのです。相手の行動はどうなっていますか?」
「は…現在敵軍は我が海自の通商破壊作戦によりフロミアへの物資と援軍の供給が滞り始めております。ですので主力と見られる部隊も中心地ケベルス周辺に集中している様であり、攻勢を仕掛けるのは困難になっているものと見られます」
これまでの戦闘で、敵軍は二桁レベルで師団を壊滅させられており、空軍も同様に100機以上の軍用機を喪失している。当然の結果と言えるだろう。
「さて、後はどの様に戦争を終わらせるか、だが…」
「失礼します!先程、モーギア領海内にてロドリア海軍艦隊が出現し、甚大な被害を与えられたとの事です!」
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