第23話 第二次スヴァン半島沖海戦③
西暦2035(令和17)年10月16日 スヴァン半島沖合
敵艦隊の動向は、「やましろ」の
「航空隊より報告。敵前衛艦隊の複数隻撃破を確認したとの事です」
管制士が報告を上げ、艦長の藤田はモニターを見つめながら呟く。
「想像の倍はいるわね…一旦南へ寄ったのは、現地の植民地艦隊と合流するためだったというわけか」
「しかも、現地の空軍部隊にも話を通して増援を持ってきている辺り、相手はやり手ですね。大型爆撃機が空母艦載機と共に低空飛行で迫ってきた時は胆が冷えましたよ」
隣に立つ砲雷長の言葉に、藤田は同感とばかりに頷く。幸いにして大半をスタンダード艦対空ミサイルやESSMで叩き落とし、発射されたミサイルも「あやなみ」のレールガンと対空レーザー砲で叩き落とせたとはいえ、うち1発はファランクス20ミリ
「航空隊は制空権掌握を確認し、〈F-35C〉にもASMを積んで積極的に叩くそうよ。敵艦隊の動向はどう?」
「レーダー、及び〈ホークアイ〉からの情報では敵前衛艦隊は19隻中9隻撃沈、3隻損傷。その後方の主力に損害はまだないとの事です。次はこの主力を狙いましょう」
「了解した。艦隊、単縦陣に変更。敵艦隊に対して接近し、SSMによる打撃を実施する。前進全速、合戦用意!」
藤田の命令一過、4隻の護衛艦は敵艦隊主力へ接近していく。その様子は間違いなく敵艦隊のレーダーに捉えられている筈だろう。だがそれが必要だった。その30分後、主力艦隊の駆逐艦のレーダーにその艦影が映し出される。
「く、駆逐艦「フガロ」より入電!方位330より敵艦隊接近!数は4、30ノットでこちらに迫ってきます!」
空母「クレムス」の艦橋に報告が入り、オルス提督は目を丸く見開く。
「4隻だと?たった4隻で勝負を挑むというのか?」
「艦隊、対水上戦闘用意!ミサイルで返り討ちにしろ!」
艦長が即座に指示を出し、外縁に位置する駆逐艦が指示に応じる。ロドリア海軍の新型駆逐艦であるカナル級駆逐艦は、4門の10センチ速射砲による対空戦闘能力と、新型の『ドゥリンダナ』艦対艦ミサイルによる打撃力、そして対潜ロケット砲や対潜魚雷などの対潜水艦戦能力と、高いポテンシャルをバランスよく備えており、傑作艦の呼び声も高い。
「迎え撃て、ミサイル発射!」
命令一過、煙突を挟む様に設置された2基の四連装発射筒より、4発のミサイルが発射される。フランスの『エグソセ』艦対艦ミサイルに酷似したそれらは、ブースターを切り捨てた後に低空飛行を開始し、迫りくる敵艦隊へと向かう。だがその様子は「やましろ」のAN/SPQ-9B対水上レーダーにはお見通しであった。
「敵艦、ミサイル発射。こちらのSSMと同等の性能を持つ模様」
「対空戦闘始め」
藤田の命令一過、「やましろ」は妨害電波とチャフ、フレア、そしてESSMを放ち、敵ミサイルを迎え撃つ。敵ミサイルのセンサーは日本のそれに比べると旧式であり、妨害の連続で1発が墜落。残る3発をESSMが叩き落とす。そして副長はすでに、返す刀で指示を送っていた。
「SSM、発射始め」
「撃ち方、はじめ!」
命令一過、4発の12式改艦対艦誘導弾が発射され、後続の3隻も続く。計16発のミサイルが飛来してきたのをレーダーで確認した相手は、当然ながら愕然となるしかなかった。
「て、敵艦隊よりミサイル多数接近!『ドゥリンダナ』に迫る低空で飛んできます!」
「対空、撃ち落とせ!」
艦長が号令を飛ばし、10センチ単装速射砲が怒涛の勢いで砲撃を放つ。1門当たり毎分40発、合計160発に相当するレートで砲弾が放たれ、海面近くに無数の黒い花が咲き乱れる。僚艦も支援とばかりに砲撃を行い、対空ミサイルを飛ばす。だが波の様に押し寄せてきたミサイル群を全て墜とすには非力に過ぎた。
弾幕を掻い潜ったミサイルは急上昇し、30ミリ機関砲の射撃をすり抜けながら降下。直撃と共に艦橋とその直上のレーダーやアンテナが吹き飛ぶ。船体部にも大きな破孔が生じ、そこから浸水が発生して船体は傾いていく。
次いで巡洋艦にもミサイルが直撃。対艦ミサイル発射筒が吹き飛び、業火が艦橋にまで飛び込む。操艦や戦闘、探索などの施設が一室に集中して設置されている艦橋であるが故に、一瞬で艦橋要員が全滅してしまった巡洋艦は機能不全に陥り、煙突を根こそぎ吹き飛ばした一撃はボイラーを暴走させた。
「敵戦闘艦3隻に命中を確認。効果は不明ですが、沈没は免れないでしょう」
「レーダーに反応あり!前方より敵艦1が接近中!」
CICに連続して報告が届き、藤田は指示を出す。
「電子戦、敵の照準を崩して!こちらは砲戦で決める!後続3隻は他の敵艦に対して攻撃を実施!陣形、崩すわよ!」
「やましろ」は舵を右に切りつつ、迫りくる敵駆逐艦に主砲を向ける。後続の3隻は残る対艦ミサイルを撃つべくより深く舵を切り、距離を離していく。その様子に相手は陣形が乱れたと見るだろう。だがそれも策のうちだった。
「主砲、撃ち方始め!」
マーク45・62口径12.7センチ単装砲の砲声が響く。艦橋上部に装備するマーク20
「ぶ、武装のみを破壊しただと!?」
そう唖然となる中、第二波が敵艦隊に降り注ぐ。しかもこの時、「いぶき」より発艦した第二次攻撃隊が合流し、8機の〈F-35C〉からはJSM空対艦ミサイルが16発、12機の〈ジークホーネット〉からは24発もの93式空対艦誘導弾が波の様に押し寄せてきていた。
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