第22話 第二次スヴァン半島沖海戦②

西暦2035年10月16日 スヴァン半島沖合上空


 海上自衛隊初の空母航空団である第31航空隊に属する8機の〈F-35C〉は、〈E-2J〉に率いられる形でロドリア艦隊の艦上戦闘機部隊に迫っていた。


「隊長機より各機、交戦開始エンゲージ。アンカー1、フォックス2」


 指揮官たる坂本さかもと三等海佐はそう命じ、データリンクで事前に把握している敵機に対して、改めてロックオンを掛ける。そして引き金を引いた。


胴体内兵器倉ウェポンベイの扉が開かれ、そこから2発のAIM-120『AMRAAM』空対空ミサイルが投下。空中でロケットモータに点火し、マッハ4の超音速で敵機へ向かっていく。


「敵機、ミサイル発射…!?」


「この距離で、届くと言うのか…!」


 ロドリア側も自身のレーダーで動向は把握していた。が、それに対して対応するにはリアクションが鈍重だった。一瞬のうちに2機が空中で爆散し、もう2機がその後を追いかける。そうして編隊が交差する直前、8機は一斉にAIM-9X『サイドワインダー』を発射。正確無比な一撃は敵機を確実に捉え、蒼空から叩き落とした。


「くそ、敵機はミサイルを扱うのに慣れているぞ!」


「狼狽えるな、格闘戦で翻弄しろ!」


 無線の間で、怒号が響き渡る。しかし〈マレ・トルナード〉のパイロット達は大きな誤算を抱えていた。


「ミサイルだけで戦う機体だと、思うなよ…!」


 操縦桿を倒し、〈F-35C〉は捻る様に旋回。動翼をコンピュータで介して電気制御するパワーバイワイヤ特有のしなやかな機動で〈マレ・トルナード〉の背後に食らいつく。そして胴体下部に装備するMGSガンポッドを発射し、主翼を25ミリ砲弾で引き裂いた。


・・・


「編隊各機、攻撃開始」


 隊長の命令一過、12機のFA-18J〈ジークホーネット〉戦闘攻撃機は敵前衛艦隊へ迫る。主翼下には93式空対艦誘導弾を2発装備しており、計24発による飽和攻撃を実現させられると踏んでいた。


「発射」


 引き金が引かれ、24発が敵に向けて解き放たれる。その様子はロドリア海軍開拓州防衛艦隊のレーダーに捕捉されていたが、艦隊司令のブロウス中将はその数に驚愕していた。


「て、敵攻撃機からミサイルだと…しかも20発以上か!?」


「対空戦闘、急げ!」


 命令一過、駆逐艦が必死に弾幕を張り始める。10センチ単装砲より毎分30発の勢いで砲弾が吐き出され、巡洋艦は主砲塔側面に取りつけている『マレ・トネル』艦対空ミサイルの発射機を指向。レーダーを組み込んだ射撃管制装置で捉えるや否や発射する。


 だが、海面を這う様に低空飛行で迫り、ほぼ同時にミサイルを発射した事に寄り、艦隊は波の様に押し寄せる攻撃を弾幕で対応するしかなかった。幸いにも何発かは10センチ速射砲の弾幕と『マレ・トネル』で撃ち落とす事が出来たものの、それが抵抗の手一杯だった。


 跳ね上がる様に急上昇した93式空対艦誘導弾は、勾配を描きながら降下し、前衛艦隊へ殺到。残る対応手段が30ミリ機関砲のみとなった巡洋艦と駆逐艦に殺到していく。ロドリア海軍の艦艇は同格相手との砲撃戦を考慮して装甲を有しているものの、大型水上戦闘艦を一撃で戦闘不能にする事を目的に開発された93式の威力はそれを容易く引き裂いた。

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