第21話 第二次スヴァン半島沖海戦①
共和暦215年10月16日 スヴァン半島南西沖合
ネモフィラ海の上を、数十隻の艦船が進む。ロドリア共和国海軍白海艦隊はスヴァン半島を占領する自衛隊を撃破し、戦線を崩壊させるべく進んでいた。当初はスヴァン半島へ直行する予定であったが、フロミアから南西にはレービア開拓州がある。ここに駐留する防衛艦隊と合流し、より多くの戦力で敵軍を撃破する方針としたのだ。
故に、到着までかなりの時間を要する事となったが、その規模はさらに強大である。艦隊旗艦を務める航空母艦「クレムス」を中心に、2隻のミサイル巡洋艦と4隻の巡洋艦、6隻の駆逐艦で構成された本隊。7隻の駆逐艦で構成される前衛艦隊。そして6隻の巡洋艦と7隻の駆逐艦、6隻の警備艦で構成される開拓州防衛艦隊で構成される総数39隻が、自衛隊に襲い掛かろうとしていた。
「提督、我が軍の通信回線に向けて、この様な通信が来ております」
「クレムス」の艦橋で、艦長のラダル大佐が報告を上げ、通信内容を書き記したメモを、席でふんぞり返る艦隊司令官のフィルダ・ディ・レイ・オルス中将に渡す。国防軍の実質的なトップであるドラクムス国防委員長の親戚であるオルス提督は、レービアを悪しき王政から解放する戦争にて武勲を上げた実力者であり、今は共和国海軍主力艦隊たる
「ふむ…『ニホン正式暦2035年10月16日、スヴァン半島にて貴官らに対し決戦を挑む。ニホン海軍第5艦隊司令官ユーイチ・オオサワ』…この時代にわざわざ果たし状を叩きつけてくるとは、敵は随分と古臭い騎士道にかぶれている様だ」
オルス提督はそう言いながらメモをラダル艦長に返し、受け取ったラダルは艦長帽のずれを直しながら尋ねる。
「如何致しますか?現在スヴァン半島の制空権は敵の手にあり、空軍からの支援は受けられませんが…」
「それに関しては、レービアの空軍部隊が策を打ってくれている。護衛付きの哨戒機を空中給油機と共に回してくれているからな。幾ら連中と言えども護衛付きを相手に手こずる筈だからな」
そう答えた直後、艦橋下部から煙突を囲む様に後方まで設置されている航空管制所から報告が上がる。
『艦橋、空軍哨戒機より入電。方位305、我が艦隊との距離5万5千にてレーダーで捕捉。数は8、南下中との事です』
「やはり、仕掛けてきたな。航空隊は直ちに出撃し、制空権を確保。航空攻撃にて初撃を与える。我が祖国ロドリアに、再び栄光をもたらすのだ!」
オルスの指示を聞き、ラダルは艦内通信で航空管制所へ指示を送る。
「航空隊、直ちに出撃。華々しい初陣を飾って見せろよ」
命令一過、甲板上が慌ただしくなる。甲板上で駐機していたLck-17〈マレ・トルナード〉艦上戦闘機に次々とパイロットが乗り込み、機体はカタパルトへ移動。蒸気式カタパルトによって次々と蒼空へと羽ばたって行った。
共和国最新の艦上戦闘機である〈マレ・トルナード〉は、空軍の主力戦闘機を空母仕様にしたものがメインの空母艦載機としては珍しく、最初から空母艦載機として設計されている。最大の特徴として機首の新型火器管制レーダーがあり、新型の空対空ミサイル運用能力を有していた。
空に上った〈マレ・トルナード〉は24機。パイロット達の戦意は高く、多くが負ける気などしなかった。
・・・
スヴァン半島沖合 第5護衛隊群
ロドリア海軍艦隊より北西に55キロメートル洋上に、海上自衛隊第5護衛隊群の姿はあった。
「カモメ2より入電、『敵機の反応を複数探知』との事」
「いぶき」の艦隊作戦司令部に報告が入り、大沢は安本に目を向ける。
「おいでなすったな。対応開始せよ」
「了解。航空隊、スクランブル!1機残らず撃墜せよ!水上艦部隊は対艦戦用意!」
命令一過、「いぶき」甲板上にてF-35C〈ライトニングⅡ〉が電磁カタパルトへ移動し、合図とともに射出。8機の〈F-35C〉と12機のFA-18J〈ジークホーネット〉戦闘攻撃機が上空に舞う。
迫りくる敵機は4機の〈F-35C〉に守られている2機のE-2J〈ホークアイ〉早期警戒機によって全て捕捉されており、自身のレーダーに映る前から把握していた。
『相手はこっちの戦時国際法を知らない連中だ、墜とされるなよ!』
斯くして、海戦は始まった。
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