同じ方向性であれば見た目も相応に

 何と言い表せばいいのだろうか。

 とてつもない苦味とえぐみと青臭さが、えも言われぬ清涼感のある香りと仄かに存在を主張する余計な甘みと混ざりあった結果、悪い意味で奇跡のベストマッチして、とても破壊力のある味と化していた。


 これまで食ったディストピア飯の中でも五本の指に入る不味さだ。

 ちゃんと完食はしたけど、できればあれはもう二度と食いたくない。

 炭酸飲料と同じくらい口にしたくないと思える一品だった。


 逆に赤いのはそこそこ美味く、黄色いのはまあまあな味だった。

 やはり調味料は偉大だと痛感させられる。

 闇鍋みたいな組み合わせでもスパイスをはじめとした調味料さえあれば、大抵はどうにかなるものだ。


「——にしても、やっぱ体に良いからってなんでもぶち込むもんじゃねえな」


 どれだけ優れた食い物だろうと、人間の体は混沌を受け付けられるようには出来ていない。

 大事なのは、秩序を保たせたまま素材を料理に昇華できるか。

 その辺りを配慮できれば、水月のディストピア飯……もとい栄養食も、もっと食いやすいものになってくれんだけどなあ。


 などと、ログアウトする直前に宿泊した宿屋のロビーでつらつらと考えていれば、


「お待たせ、ヒバナ」


 金髪碧眼の少女プレイヤー——サンゴがこちらに歩いてきた。


 サンゴの呼びかけに片手で答え、宿屋を後にする。

 それから街の中を歩きながら、俺はサンゴに訊ねる。


「さてと、これからどうするよ」


「順当にエリア攻略でいいんじゃないかしら? ここら辺の敵だと私達の相手にはならないわけだし」


「確かにな」


 緊張感たっぷりのひりつくような戦いをするのであれば、レベルの高いモンスターが出現する場所に赴くのが手っ取り早い。

 その為には、どんどんエリアを突破して冒険を進める必要がある。


「このまま真っ直ぐ向かうか? それとも軽く準備をしてからにするか?」


「勿論、ちゃんと準備してからよ。まずは武器と防具を一新して、それで余ったお金で物資を購入してから、次のエリアに向かいましょう」


「あいよ。……でも、防具まで変える必要あるか?」


 俺ら実質ノーダメ縛りしてるのに。


「当然よ。少なくとも、腕装備と脚装備だけは揃えておいた方がいいわ」


 ——曰く、物理防御力に影響するVIT頑丈、術・属性防御力に影響するRES精神の他に、腕装備はDEX、脚装備はAGIが上昇するよう数値が割り振られている。

 それにゲームを進めていけば、防具単体に特殊効果が付随するようになったり、同じ系統の防具で揃えることで追加の恩恵——シリーズボーナスが発生することから、裸縛りでもしない限りは、防具は同じ系統のものを一式揃えておいた方が良いとのことだ。


 なんて話を聞かされているうちに防具屋に到着する。

 早速、店の中に入れば近くにいた店員が深々と一礼する。


「いらっしゃいませ。どの防具をお求めでしょうか?」


「一覧を見せてもらえるかしら」


「かしこまりました。こちらが一覧になります」


 店員が言うと同時にウィンドウが出現する。

 売られている防具の大まかな情報が書かれていた。


「ふーん、基本はセット売りが基本か」


「そのようね。けど、今はまだ無理にシリーズボーナスを発動させなくても問題はなさそうね」


 現時点で買える防具で発動するシリーズボーナスは、幾つかのステータスがちょっと上がるくらいだ。

 しかも、俺らが一番重視するSTR、AGI、DEXの三つを同時に伸ばせるものは一つも無かったので、腕と脚防具を新調するだけにした。




————————————


・野戦のグローブ

 厚手の革製グローブ。

 山野や森林で戦うことを想定して作られている為、頑丈に作られている。


・野戦のブーツ

 頑丈な作りの革製ブーツ。

 野戦を想定して作られている為、道悪でも問題なく走破可能。


————————————




 とりあえず腕、脚防具共にAGI、DEXそれぞれのステータスが一番伸ばせる野戦シリーズにしてみた。


 装備してみた感想としては、腕防具の方はまだこれといった実感は湧かないが、脚防具に関しては歩きやすくなった気がする。

 具体的にはAGIのステータスを伸ばした時と感覚が似ているから、多分AGIの上昇補正がちゃんとかかっているのだろう。


 あと一つ野戦シリーズの防具を装備すればシリーズボーナスが発動したのだが、伸びるステータスがVITとRESだったのと予算の兼ね合いからそれは断念した。

 思っていたよりも一つあたりの値段が張ってたのもあるが、他に優先して揃えなきゃならないものもあるしな。


(……それはそうと)


「同じ格好して歩いてると、なんつーかペアルックしてるみたいだな」


 言いながら、サンゴを一瞥する。


 彼女が購入したのも同じく野戦のグローブとブーツ。

 加えて俺もサンゴも未だ初期装備のままなので、側から見ればペアルックだと思われてもおかしくない。


「あら、小さい頃はよくしてたじゃない」


「そりゃ、うちの母親とお前んちのおばさんが画策してたからな」


 おかげでクラスの連中から揶揄われたりしたこともあったか。

 まあでも、俺もサンゴも特にこれといった反応しないでいたら、すぐに誰もイジってこなくなったけど。


「ふふっ、そうだったわね。……ねえ、ヒバナ。機会があれば、またお揃いの服を着てみる?」


「勘弁してくれ。今の俺らがやると、色々と面倒なことになる」


「そう、残念」


 小さく微笑みながら言うと、サンゴは歩く足を少しだけ速めるのだった。


「——それじゃあ、早いところ次のお店に向かいましょうか」




————————————

シリーズボーナスは、五つの防具枠のうち三つ以上同じ系統にすることで効果を発揮し、五枠すべてを同じシリーズにすることで効果が最大限になります。

序盤はともかくとして、余程シナジーがない限りは、キメラ装備にするよりもシリーズボーナスを優先させた方が良い場合が多いようです。


ちなみに幼馴染みちゃんの名前の由来ですが、

水月→みづき→満月→三五の月→サンゴ

と連想ゲームとなっています。

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