瀕死ビルドと無傷ビルドの交錯

「私が惹きつけるから、ヒバナは隙を突いて攻撃お願い」


「了解」


 戦闘が始まるや否や、最低限の合図を交わしてそれぞれの動きに入る。

 サンゴは真っ先にライオットベアの懐に飛び込んで先制攻撃を仕掛け、その間に俺は奴の裏に回り込む。

 ライオットベアがサンゴに反応すれば、俺が背後から双燕斬を叩き込むし、サンゴより死にかけの俺を優先しようものなら——、


「サンゴ、攻撃任せた」


「ええ」


 攻撃を中断し、敢えて無防備な状態を見せつけて奴の注意を惹きつける。

 その間にサンゴがライオットベアの頭部に棍による連撃を叩き込んでみせた。


「ヒバナ!」


「あいよ!」


 背後からの一撃でライオットベアのヘイトがサンゴに向いた瞬間、今度こそ双燕斬をライオットベアの背中にお見舞いする。

 更にダメ押しでもう一太刀浴びせてから一旦間合いの外側に出る。

 ライオットベアは再び俺に狙いを変更しようとするが、


「どこを見てるの?」


 そうすれば、視界外からサンゴの棒術が襲いかかる。

 意識外からのヒットアンドアウェイ——たったそれだけの連携でライオットベアを翻弄する。


 順調な滑り出しだ。

 だけど、一方的な戦況の割にはHPゲージの削りが遅い。

 低レベルで火力が足りていないせいだ。


 クッソもどかしいが、こればかりはどうしようもねえな……!

 でも火力が足りなきゃ、手数で補えばいいだけのこと!


「サンゴ、もっとスピード上げていくぞ!」


「ヒバナ、もっとスピード上げるわよ!」


 俺とサンゴの声が重なり、呼応して互いにギアを上げていく。

 時折、ライオットベアが強引に反撃を仕掛けてくるが、当てずっぽうに繰り出した攻撃であれば回避は容易い。

 なんなら逆にカウンターを与える絶好のチャンスだった。

 そんでサンゴに至っては、見ているこっちがハラハラするくらい紙一重で攻撃を躱していた。


 刹那の見切り——それが戦闘におけるサンゴの信条だ。

 決してダメージを受けないと誓約を課しているからこそ、被弾するかしないか、そのギリギリを攻める。

 そうすることでノーダメージ撃破をより価値のあるものに昇華させる。


 要するに、だ。

 コイツも俺と同じ——変人ってことだ。


 そうやってライオットベアの周囲を駆け回りながら、死角から斬撃と打撃のラッシュを浴びせていく。

 ゆっくりだが着実にHPを削っていき、ゲージがようやく三割を下回った。


 勝負はここからだ。


「——サンゴ、そろそろ来るぞ!!」


 さっきの戦闘では、この辺りで一気に火力を上げたことで拝むことはなかったが、ライオットベアは体力が四分の一以下になると行動パターンに変化が生じる。


「グルアアアアッ!!!」


 耳がつんざくような強烈な咆哮。

 同時、ライオットベアの全身から赤い紋様が浮かび上がった。


 血暴走——体温を生命活動を維持できる限界ギリギリまで上昇させて、身体能力を飛躍的に向上させるライオットベアの生態行動。

 所謂、発狂モードに突入する。


「——っ!」


 直後、ライオットベアはさっきとは比較にならない速度でタックルをしてくる。

 間一発での回避には成功するが、奴の攻撃はまだ終わらない。

 避けられたことに気づくや否や、腕を振り回して追撃を仕掛けてくる。

 そっちは身体を捻らせながら後ろに跳ぶことで攻撃の範囲外に逃れる。


 チッ、完全に俺をマークしてきたか!

 どうせならサンゴを狙って欲しかったが……でも、これはこれで好都合!


「サンゴ、スタン狙え!!」


「言われなくても!!」


 ライオットベアの背後からサンゴが急襲を仕掛ける。

 身を翻しながら高く跳躍し、アビリティを発動——渾身の力で振り下ろした棍がライオットベアの脳天に叩き込まれる。

 刹那、ライオットベアが天使の輪のように星形のエフェクトを頭上に発生させながらその場に倒れ込んだ。


 気絶状態が付与された証拠だ。

 これから約十秒間コイツは無防備な状態になる。


「スタン!! 畳み掛けるわよ!!」


「おう!!」


 思考から防御に関する一切をかなぐり捨て、攻勢に出る。

 集中と気合溜めを発動、クリティカル率を上昇させてから迅鋒穿を叩き込む。

 立て続けに双燕斬でダメ押ししてから、背中のロングソードを引き抜く。


 基本は一刀でやるとは言ったが……二刀流を封じているわけではない。

 そっちの方が有効だと感じたら、即座にスタイルを切り替える。

 今みたいにアビリティがリキャスト待ちで使えず、回避や防御に思考を回さずに済む状況だったらな。


 二刀と棍の乱舞が容赦無くライオットベアに襲いかかる。

 みるみるうちにHPゲージが消失し、気絶時間中だけで一割以下にまで削ることに成功する。


 ——しかし、撃破には至らず。


 ライオットベアが気絶状態から回復する。

 即座に立ち上がろうとするが、その瞬間を見計らい、俺はロングソードを地面に突き立てる。


「まだ動くんじゃねえよ!!」


 そこから繰り出すのは、気合溜めを重ねた迅鋒穿。

 狙いはライオットベアの右腕——腕を貫通させながらアイアンソードを思いっきり地面に突き刺す。


 いくら発狂モードで腕力が上がっていたとしても、深々と突き刺さった地面を引き抜くのは容易ではないはず。

 証拠にライオットベアは苦悶の咆哮を上げながらも、思うように動けずにいた。


 ……ま、数秒の時間稼ぎくらいしかできないだろうけど。


 だが、それで十分だ。

 奴がアイアンソードを引き抜くよりも先にとどめを刺すから。


「これで終わりだあああっ!!!」


 ロングソードを再び握り締め、放つのは双燕斬。

 素早い二連の斬撃とサンゴが発動させた渾身の薙ぎ払いのアビリティが同時にライオットベアに叩き込まれれば、僅かに溢れた断末魔と共にライオットベアは、大量のポリゴンとなって爆散した。




————————————


BATTLE RESULT

 EXP:670

 GALL:800

 TIME:05’02”58


取得アイテム

 赤紋熊の甲腕 1

 赤紋熊の毛皮 2

 赤紋熊の牙 1 


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 リザルトが出現した後、サンゴと顔を見合わせる。


 俺は死にかけHP1、サンゴは全くの無傷HP満タン

 お互い回復回数はゼロ、被弾回数もゼロ。

 つまり、ノーダメージ撃破達成。


 俺たちの——完全勝利だ。


 その事実を確認しあった後、俺とサンゴは小さく笑みを浮かべ、無言でハイタッチを交わしてみせた。




————————————

ライオットベア

 アルファーぜの森を住処とする魔獣。

 攻撃パターンは引っ掻き、飛びつき、タックルといったように単純で予備動作も分かりやすいが、攻撃力が高く動きも俊敏なので注意が必要。

 HPが25%を下回ると全身に赤い紋様が浮かびだす。この状態になると攻撃威力、速度どちらも跳ね上がるので、更なる注意が必要となる。

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