いつもギリギリで生きていたいから
一瞬の浮遊感と同時に作成したアバターと身体の感覚が同調する。
その直後、視界が開けば、そこは平原の中にある小高い丘の上だった。
「おお、これは……!?」
これマジでVRかって疑いたくなるくらいグラフィックがリアルなんだけど。
……いや、グラフィックだけじゃないな。
地面を踏み締めた時の感触、頬を撫でる微風、それに混じる草花の香りといった自然現象まで忠実に再現されている。
なるほど、ゲーマーじゃない層からも人気が出てるとは聞いてはいたが、これなら納得だ。
「……にしても、凄え人だな」
周りを見回しながら思わず呟く。
街から離れてるというのに、有名観光地ばりにプレイヤーでごった返してる。
街からやって来る者。
俺みたいに初ログインでスポーンする者。
平原から街に戻って来る者。
最初のスポーン場所が街の中に設定されていないのは、解放者がどこからともなくやって来たという設定に沿わせるためだろうけど、街の中が初ログインしたばかりのプレイヤーで溢れないようにするってのもありそうだな。
こんな風に街の外にスポーン場所を設定すれば、街に行く前に軽くフィールド探索するって選択肢が生まれるわけだし。
まあ、それは一旦置いておくとして、
「まずはステータスを確認してみようか」
メニューを開き、ステータス画面に切り替える。
————————————
PN:ヒバナ
Lv:1
1500ガル
JOB(M):剣士(長剣使い)
JOB(S):-
SL:-
パラメーター
HP:30
MP:10
STR:20
VIT:10
INT:10
RES:10
AGI:20
DEX:10
LUK:10
残りSP;50
アビリティ
・双燕斬
・集中
装備
プライマリー:ロングソード
セカンダリー:-
頭:-
胴:麻の服
腕:-
腰:麻のズボン
脚:革の靴
アクセサリー:-
————————————
まあ、よくある初期ステータスだ。
特に言及するポイントもないが、強いて言うなら、
これに加えてステータス補正があると考えると、想定していたよりも高火力を叩き出せそうだ。
これは地味に嬉しい誤算。
「さてと、このまま街に行くのもいいが……折角、フィールドにいるんだ。軽くこのゲームの戦闘がどんなもんか試してみるとするか」
まだ
というわけで、街とは反対方向に歩きながら、スポーンした際に装備してあった長剣を背中から抜いてみる。
ずっしりとした重さが右手にのしかかるが、両手でなら軽々と振り回せそうだ。
一応、長剣での二刀流もやろうと思えばいけなくもなさそうだが……普通に一刀で戦った方が安定しそうだな。
足早に丘を下りきれば早速、記念すべきアポリベ初モンスターに遭遇する。
「グルルルル……ッ!!」
鋭利な爪と牙、強靭そうな四肢、立派な鬣と尻尾。
現実でのそれよりは二回りほどデカいが、このフォルムは——、
「ウルフか」
序盤で出て来るモンスターとしては比較的メジャーな一体だな。
初陣としては悪くない相手だ。
長剣を構えれば、目の前にウィンドウが出現する。
内容は戦闘に関しての基礎的な情報をまとめたものだった。
「へえ、こんな感じにTipsが出るのか」
何ページかに渡ってずらっと書かれていたが、大事なとこだけ要約すると、
・敵の頭上にあるHPバーを削り切れば撃破。
・アビリティを駆使して戦おう。
・プレイヤーの戦闘スタイルに合わせて習得するアビリティは変化する。
・君なりの戦い方を見つけよう。
こんな感じになる。
そんでもって、このウィンドウを閉じるか、こっちから攻撃を仕掛けることで実際に戦闘が始まるようだった。
これは慌てずじっくりと読めるようにする為のゲーム的配慮だろう。
実際、Tipsを読んでいる間、ウルフは俺から一定距離を取って、グルグル唸っているだけだった。
戦闘開始のタイミングはこっちで決められる。
となれば、戦う前に一つやっておきたいことがある。
「痛覚はピリッとした痺れがある程度。それと自傷ダメはある、と」
じゃあ、心置きなくやれるな。
長剣の刃を強く握りしめて、自身のHPが減少してるのを確認してから、
「なら……ふっ!」
呼吸を整え、一思いに長剣を俺自身の腹に突き立てる。
「ぐっ……!」
ちゃんと急所は外しているが、それでもみるみるHPが減少していき、最終的にHPバーの色が緑から瀕死を示す赤に変化したところでようやく止まる。
完全に勘でやってみたが、どうやら上手く調整はいったようだ。
ハラキリは武士の嗜み。
「あと一撃……どんなカスダメだろうが掠めただけで確実に死ねるな、これは」
ふと周りに視線をやれば、近くを通りがかったプレイヤーが漏れなく奇怪な眼差しで俺のことを見ていた。
当然の反応だ。
初スポーンしてから数分もしないうちに、わざわざセルフキルなんて奇行を起こす変人を見たら普通そうなるし、俺だって俺と同じことしている人間を目の当たりにしたら普通にドン引く。
——でも、これが俺のプレイスタイルだから仕方ない。
俺がこういうRPGの戦闘で一番重視しているのは、今みたいに一発の被弾も許されない状況から引き起こされる緊張感だ。
それにもしプレイスタイルが習得アビリティにもちゃんと直結するというのなら、後々のことを考えて今のうちから戦闘時はなるべく瀕死状態を維持しておきたい。
「そんじゃ……来いよ、ワンコロ」
手招きしながらTipsのウィンドウを閉じる。
瞬間、ずっと唸り声を上げて威嚇していただけだったウルフが、俺の喉元目掛けて飛びかかって来た。
「よっと」
攻撃を躱し、すれ違いざまに一太刀浴びせる。
向こうが突っ込んできた勢いを利用して叩き込んだ一撃は、ウルフの胴体を深々と切り裂き、傷口からは血飛沫……に酷似したポリゴンが散った。
「からの……追撃!!」
攻撃を受けて動きが鈍ったところにすかさずダメ押しの斬撃を繰り出し、ウルフをもう一度叩き斬れば、粒子状のエフェクトとなって霧散してみせた。
————————————
BATTLE RESULT
EXP:10
GALL:15
TIME:00’05”13
取得アイテム
尖った牙 1
————————————
なるほど、ドロップアイテムは勝手にインベントリに入るシステムか。
ゲームによってはモンスターの死体に触れたり、消滅した地点に落ちたアイテムを拾いに行ったりと様々だけど、個人的には今みたいに勝手に回収してくれる方が楽でいい。
とはいえ、回収作業があるのもゲームしてる感があっていいんだけどな。
「うっし、興も乗ってきたし、どんどん倒しまくるとしようか!」
回復手段なし+瀕死での連戦とか最高に胸が踊るシチュエーションだ。
これでボスラッシュとかだったら更に昂るのだが……まあ、それは今後のお楽しみにとっておこう。
そして俺は、鼻歌混じりに長剣を担いで平原の奥へと進むことにした。
————————————
さらっとハラキリ侍してますが、自傷に慣れてない人間が彼と同じことをしようとすれば即死します。
何気に無駄に洗練された何一つ無駄のない無駄な技術です。
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