今際の際だからこそ、放つ輝きは煌々と

 追い詰められたネズミが猫にすら立ち向かうように、人は窮地に追いやられた時、逆境に立たされた時にこそ普段は眠らせてある力を最大限発揮するものだ。


 一瞬の気の緩みも許されない極度の緊張とそれに伴って大量に分泌されるアドレナリン。

 これら二つが合わさることで極限まで高まる集中力。


 その状態を最も体感できる方法が、そう——瀕死で戦うことだ。


 戦闘がより苛烈を極めるほど、残りHPがミリに近づくほど、より戦闘は白熱したものへと昇華する。

 加えて、全てのゲームに当てはまるわけじゃないが、HPが一定以下になることでステータスが上昇するスキルをセットすることで攻撃力が大幅に上昇し、高火力を叩き出せて気持ちよくもなれる。

 まさに一石二鳥の戦い方だ。


 以前、このことを幼馴染みに力説したら、何か救いようのない可哀想なものを目の当たりにしたような、哀れみを含んだ眼差しを向けられたものだが……って、そんなことはいいんだよ。

 つまり何が言いたいかっていうと——、


「やっぱこれが最高に楽しいんだよなあ!!」


 一定時間クリティカル率を上昇させるアビリティ集中を発動。

 大猪ボアの突進を紙一重で躱し、双燕斬そうえんざん——左右に連続で素早く斬り払う——を返しに叩き込めば、一太刀目でポリゴンとなって爆散した。


 続け様に背後から迫ってきたウルフの攻撃をを身を屈ませて避けると同時、背負い投げるように長剣を振ってウルフを叩き斬る。

 クリティカルが入って一撃で撃破したことを横目に確認しつつ、近くで様子を窺っていた鎧のような甲殻を持つ巨大な節足動物オオムカデの懐に飛び込む。

 ガラ空きの腹部目掛けて思い切り長剣を振り上げれば、またもやクリティカルが発生したようで、硬そうな甲殻ごとぶった斬ってみせた。


「……っし、一丁上がり!」


 長剣を背中に戻しつつ、出現したバトルリザルトを確認する。


 おっ、新アビリティ習得したか。

 このゲーム、レベルアップ以外にも何かしらの条件を達成することでも習得できるっぽいんだよな。

 ちょうど今みたいな感じに。




————————————


『火事場の底力』

 瀕死(HPが赤表示)時に物理攻撃力、術・属性攻撃力が大幅に上昇する。


————————————




「っしゃきたオラァ!!」


 現状、一番欲しかった性能に思わずガッツポーズを決める。


 やっぱ瀕死で戦うんなら、これくらいのリターンが無いとな。

 しかも物理だけじゃなくて、属性系の攻撃力も上がるのが偉い。

 もし炎を纏った斬撃とかできるようになったら、炎部分にもバフが乗るってことだろうし。


 ……まあ、本当にそんなアビリティがあるかどうかは知らんけど。


「しかし……マジでプレイスタイルが習得アビリティに影響するんだな」


 勿論、こういうアビリティが取れればいいなーって狙いがあって、瀕死状態をずっと維持していたわけだけど、だとしてもこんなに早く習得できるとは思ってもいなかった。

 つっても、戦闘を始めてからそれなりに時間は経ってるんだけど。




————————————


PN:ヒバナ

Lv:7

8714ガル

JOB(M):剣士(長剣使い)

JOB(S):-

SL:-


パラメーター

HP:30

MP:10

STR:20

VIT:10

INT:10

RES:10

AGI:20

DEX:10

LUK:10

残りSP;80


アビリティ

・双燕斬

・集中

・迅鋒穿

・気合溜め

・火事場の底力



装備

プライマリー:ロングソード

セカンダリー:-

頭:-

胴:麻の服

腕:-

腰:麻のズボン

脚:革の靴

アクセサリー:-


————————————




 うん、まあかれこれ五、六時間はぶっ通しでやりこんだよね。

 いつの間にか辺りが真っ暗になってるし、大分エリアの奥まで来てしまっている。


 けれど、おかげでアビリティを新規に二つ習得していた。

 戦闘回数と時間に対してレベルの上がりは遅い気はするが……チュートリアルエリアだから経験値があんま美味くないのかもな。


 迅鋒穿じんほうせんは、双燕斬と同じ攻撃系のアビリティで、大きく踏み込みながら強烈な突きを繰り出すというもの。

 気合溜めは、息を大きく吸い込んで次の攻撃威力を上昇させるというものだ。


 使い勝手としては、序盤で習得できるアビリティだけあって、どっちもまずまずってところか。


 前者は攻撃が一発のみである分、威力は高く設定されているが、タメと後隙が気持ち長めなのがネック。

 後者は、初撃にしか威力アップの効果が乗らない為、双燕斬みたいな複数ヒットするアビリティとは相性が悪く、現状だと実質、迅鋒穿専用になってしまっているのが残念ポイントだったりする。


 つっても、そこらの雑魚敵程度であればスキルを使わずとも余裕で倒せるから、ぶっちゃけ大して問題にはならない。

 ただ、こうだったらもっと使いやすかったのにってだけのことだ。


 ちなみにアビリティは、アーツとアシストの二タイプに分かれていて、双燕斬や迅鋒穿のような攻撃技はアーツ、集中や気合溜め、今し方習得した火事場の底力はアシストに分類されている。

 更にそこからまた二種類に細分化もされているが……まあ、それは一旦置いておくとして、重要なのはこれらのバランスを考えて習得することだ。

 アシストアビリティでステータスを上げてからアーツアビリティでぶん殴るっていうのが上手く戦うコツだって事前に得た前情報やTipsにも書かれてあった。


 一応、アビリティをセットできる数に限りはあるみたいだから、フルアタやバフだけ構成にならないように気をつけないとな。


「それはそうと……ステ振りはどうしたもんか」


 レベルアップで獲得できるSPステータスポイントを割り振ることで、初めてステータスを成長させられるのだが、一度割り振るとそう簡単には戻せないというから適当に決めるわけにもいかない。

 とりあえず現段階では、STR重視かAGI重視、もしくはDEX器用重視のいずれかで考えているが……その前に誰かに相談してから決めたいとこ——、


 ピロン。


 ………………ピロン?

 ……あ、やべえ、狩りに夢中になってすっかり忘れてた。


 昂っていた気持ちが一気に静まる。

 恐る恐るメニューを開き、メッセージを確認すれば、実に二十件以上もの通知が届いていた。

 当然ながらメッセージは、幼馴染みからのものだった。


「………………」


 ポップアップでちらりと本文は見えてはいたが、既読を付けるためにもチャット画面に切り替える。




みづき:随分と変態プレイのお楽しみのようね、ヒバナさん?




 あっ、ちょっとこれ真面目にダメな奴だ。

 さん付けしてる時はマジギレしてる証拠だ。

 つーか、もしかしなくてもモンスター狩りに勤しんでたのバレてるよな。


 急いで弁明の返事をしようとするも、




みづき:言い訳なら街の中でじっくりと聞いてあげるわ。

    いえ、遺言と言った方が正しいかしら?

    何にせよ、一度灸を据える必要があるわね。




 テキストが連投された直後だった。

 突如として、背後から細長い何かが俺の心臓を目掛けて飛んできた。




————————————

チュートリアルエリアは初心者でも倒しやすいように出現モンスターのパラメーターや行動パターンが調整されている分、獲得経験値は低めに設定されています。

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