667 ーダブルシックスティーセブンー

阿尼場阿礼

第1話

 二日前。

 強くなる雨脚の中で、何人もの足音が刻々と大きくなっていく。数々の障害を掻き分けて夜風が小窓を通過する。風にさらされて膝を何度か震わせた笠間は、電気のついていない小部屋で全神経を片耳に集中させている。

『もうすぐ迎えが来る。何とかその場をやり過ごせ。』

 低い声を響かせるその声は、どこか笠間を嘲笑うように言った後、乱暴なぶつ切り音を残して去った。

「やり過ごせ、って・・・」

 笠間は歪ませた目を擦りながら小窓の外を覗き込む。迷彩のヘルメットに上下を揃えた男たちが庭の小石を蹴り飛ばしながら笠間の真下まで近づいてくる。直後、その真下からドアの開く音が響く。

 笠間はその場をハブに右往左往した後、どこか隠れられる場所を探したがクローゼットの中はいかにも小並な感じがして、一度入りはしたがすぐに出てきてしまった。

 そう時間を浪費しているうちに、階段を登り始める音が鬼気迫る。笠間は、その音が自分の死を迎えに来るように感じ始めた。急いで辺りを見渡すが、机にベッド、クローゼットしかない殺風景な部屋で打つ手が思い浮かばなかった。

 笠間はその場で丸まり、黙々と迫る終わりを待った。軍人の一歩一歩が、笠間の額に汗のベールを一層一層増やしていった。

「ほら。」

 真上から、色気を纏った艷やかな声が笠間を包む。少し視界を上げた笠間に、紅の爪を付けた、細長い手が差し伸べられていた。反射的にその手を掴む。見た目のスリムなスタイルから反して、その屋根から吊るされた縄を、男一人抱えながら何の苦も無いとばかりによじ登る彼女は、真下の部屋からたじろぐ軍人たちの声を聞きながら、危なかったね、と小声で言って笑った。

 屋根に登った二人は、家の後に止められたダンプに乗り込む。運転席には筋骨隆々の男がタンクトップ姿で待ち構えていた。

「ライ!出して!」

女の声に呼応するように動き出すダンプカーは、所狭しと生え揃う木々を薙ぎ倒しながら歩を進めた。



667-始

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