第5話 DISC5(#8)
<#8 吉田和人はせがまれる>
「もう大丈夫なのかね?」
「はい、しっかり眠れましたから」
意識を回復したクリスは笑顔で、元気そうに、腰を回したり、肘を伸ばしたりしている。
「でも本当に不思議な
うん、やっぱこれが三十過ぎのおっさんの体温とは、口が裂けても言えんな。
クリスは魔物との戦いに使った剣を持つと、その持ち主だった冒険者の白骨遺体のところへ行き、
「ありがとうございました」
と言って、剣をその傍らに置いた。そして、その場に跪いた。
「どうか……安らかにお眠り下さい……」
両手を組み、目を閉じ、祈りを捧げる。
(本当にこの
俺はそんな風に思わざるを得なかった。
その後、俺たちは色々と世間話をしながら、洞窟の出口に向かって行った。
次第に打ち解けていくと――最初に彼女を見た時の印象と違って、結構明るくて、そしておしゃべりも好きな
このあたりは――ここが異世界と言っても――どこにでもいる、このくらいの年頃の女の子(十七歳ということは教えてもらった)と変わらないみたいだな……
「そうか、妹さんの病気はそんなに大変なんじゃな……分った。そなたの望み通り妹さんの病気が治せるまで、わしが力を貸そう」
「え、いいんですか、
「うむ。言ったであろう? わしは、そなたのような者を救うために遣わされたのじゃ。わしと、その
「あ……ありがとうございます!」
クリスの顔が、喜びに輝いた。
「その
「はいっ! よ、よろしくお願いします!」
彼女はどこにいるか分らない俺に向かってペコリと頭を下げた。
うん、やっぱり可愛い。
「こちらこそよろしくな、クリスティア……いや、クリスよ」
向かう先に、光が見えてきた。
「そろそろ出口ですね。じゃあ……変身を解いてください」
「へっ?」
「元の格好に、戻していただけますか?」
「……それはできん」
「えっ、えっ、どうしてですか?」
「だって……そなたの服は全部破いてしまったし……パンツも……ゴニョゴニョ」
最後のは小声で付け加えた。
「じゃ、じゃあ……いま変身を解いたら……」
「すっぽんぽんになってしまうのだが」
「ひっ……ひどいじゃないですかっ!!」
「い、いやあ、すまんすまん。状況が状況だっただけにな……まあ、こう
「そういう問題じゃないです! それじゃあ、街に戻っても、しばらくこの姿でいなきゃいけないんでしょ!?」
「まあ……そうなるの」
「いやーっ!」
クリスはその場にしゃがみ込んでしまった。
「そ、そんな嫌がることもなかろうて。堂々としていればよいではないか。いまのそなたは、誰もが思わず振り返って二度見、三度見してしまうほど、美しいのじゃぞ?」
「だからそれが嫌なんですっ! こ、こんな格好を、たくさんの人に見られちゃうなんて……はっ、はっ、恥ずかしすぎて、死んじゃいますっっ!!」
駄々をこねる小さな女の子のように、首をぶるぶる振るクリス。
その顔は真っ赤で、涙目になっている。
「あーもう分った分った! 泣くな! ……多分、ここから出て、街に着くまでの間には民家が一軒や二軒はあるじゃろう。そこから上に羽織るものをチョロまかして……」
「え?」
「いっ、いや、お借りしようではないか。多分、コートの一枚くらいは持っているじゃろう、なっ」
「う゛~っ」
不承不承と言った感じで立ち上がると、クリスはまた出口に向かって歩み始めたが……途中で「あ!」と声をあげた。
「今度はなんじゃ」
「も、もしかしてこれから先も、変身したら、着てるもの全部破かれて、すっぽんぽんになってしまうんですか?」
「……じゃな」
「じゃな、じゃないですよ! イヤです!! 何とかしてくださいよ、
「あー……まあ、
確かに、ポニテの女に突き飛ばされた時に脱げた帽子は無傷で、現在は収納魔法で別な空間に送っている。
「それじゃあ何がどう転んでもすっぽんぽんじゃないですかあっ!!」
「うー……あ、そうじゃ、ずっとわ……いや、
「ダメですよ。なんだかんだ言ってもこれ金属ですもの……やっぱりゴツゴツしてるし」
彼女は言ったが、実は途中で、自分もこれは撤回したい気持ちになっていた。
(そうは言ったものの……四六時中彼女と一緒じゃ、間違いなくこっちの身がもたねえよ……いろんな意味で……)
ちょっとむくれた感じで、クリスは歩きながら言い続けた。
「そのフレイア様という女神の方だったら、何かいい方法、ご存知なんじゃないですかっ」
「う、うむ……」
そんなこと言われてもなあ、あれ、口からでまかせだし。
「だいたいこの
「しっ、知らんよ! 女神さまに聞いてくれっ!」
洞窟の出口が近づいてくる。
そこから見えるようになってきた空は、少し、赤く染まり始めていた――
◇◇◇
この王国で、とある美少女剣士の噂で持ちきりになるのは、この後すぐのことである。
人々が魔物に襲われ、苦しめられている時――どこからともなく、風のように彼女は現れる。
カチューシャをつけた銀色の美しい髪、宝石のような澄んだ瞳、そして傷ひとつない真っ白な肌と、大柄で豊満な身体を、なぜだかキワドい格好のビキニアーマーで「魅せて」くれているスーパー美少女。
腰の黒い魔剣を振るい、どんな魔物も退治する。
そしてその後は恥ずかしそうな表情を見せて――礼を言う人々に応えるのもそこそこに、急いでどこかに飛び去っていく、絶対無敵の美少女剣士。
人か、
「彼女の正体を突き止めろ!」
世間は色めきたつ。
冒険者たちは、彼女を己のパーティーに加えようと動き出す――
純愛、不純を問わずして、彼女を我が物にするのだと、王侯・貴族も動き出す――
そして、我こそは世界一と自負する女武芸者たちも、一度手合わせしたいと動き始める――
噂はやがて、伝説になっていく。
これはその伝説の、ほんの最初の、一ページ目。
クリスティアと伝説のビキニアーマー・吉田 ~カクヨム限定版~ 桃島つくも @101099
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