第2部 第1話 君に
「良かったぁ!」
ベッドの横にしがみつくようにしているのだった。
「死んじゃったのかと思いましたよぉ〜」
どうやらここは病院のベッドの上らしい。
真っ白なシーツを体にかけられていて、腕には点滴の針が刺さり、口には酸素マスクが被せられていた。
近くには心電図だろうか、規則正しい電子音を鳴らしている。
「なんだ、生きてたのか。残念だな」
声がした方を見ると、ドアの近くの壁にもたれかかった
憮然とした表情を浮かべ憎まれ口を叩いてはいるが、例の前髪を直す仕草をしているところを見る限り、
なんだかんだで心配してくれていたというわけだ。
「トツさんって、意外とタフだったんですね」
こちらの声にも聞き覚えがあった。
ベッドのフレームに腕を乗せて覗き込むようにしているのは、
「てっきりアル中だと思ってたのに、しぶといんですね」
「私、お水もらって来ますね!」
そう言って小鳥は小走りに出て行ってしむう。
それを見送ると、咳払いを一つ。
「まあな。そっちこそ元気そうじゃないか」
なんとか声が出たのでホッとした。
「それはもう」
と、力こぶを作って見せるのだった。
顔には火傷の跡が見えるものの、この様子だと心配ないようだ。
「まったくお前って奴は」
「わたしたちへの攻撃を防ぐのにかまけて、自分の回避を怠るなんてな。間抜けもいいところだ」
「面目ないです」
「でも、闇属性ってさすがですよね」
「精神的ダメージも少しずつ闇に取り込んじゃうんですもんね。もはやなんでもアリって感じですね」
「そんないいもんじゃないさ」
「俺は何日くらいで寝たんですか」
「2週間だ」
「そんなに⁉︎」
自分の腕を見る。点滴の針が刺さった腕は心なしか細くなっている気がした。
(それだけ
「義兄さん。あれから『
「不気味なくらい大人しいな」
「何かを企んでいると考えるのが自然だろうな。何せ奴らはこの国からを恨んでいるんだから、このまま大人しくしているとは思えない」
「ですね。それから『伊藤』の方は?」
「そっちはトツの復帰待ちだ」
「ということは、『
「正確には『奪還しても意味がない』と思ったんだろうな」
「どういうことですか?」
と、聞いたのは
思っていたら、売店で買って来たであろう紙パックのジュースを飲み干したところだった。ストローでの最後のひと吸いだったというわけだ。
「『伊藤』はトツの記憶を消されてる。正確にはトツから『伝達』された小鳥はさにだがな」
いつの間にか呼び方が「小鳥」になっている。
喜ばしいことだ。
「トツはダブル闇属性を使って記憶を消している。だから戻すにもやはり闇属性が同時に扱える者でないとダメなんだ」
「ただでさえ希少な闇属性をメインとサブに持ってる人かぁ。そりゃ難しいですね」
「動くことさえままならない者を、仲間として置いておいても邪魔になるだけだからな」
「奴らから奪った『
「大丈夫だ。あの『
「そうですか……」
「その博士の様子はどうですか」
美兎もまた「
「今のところ、問題ないようだ。小鳥のおかげでな」
「小鳥の⁉︎」
「そうなんですよ」
3つ目のパンに取りかかっている
「彼女、めっちゃいい子ですよね。博士は普段、クールなのに、小鳥と話してる時はよく笑ってるんですよ」
噂をしていると、病室のドアが開き小鳥が水差しを持って戻って来たところだった。
ずいぶん時間がかかったな、と思っていたら、その理由がわかった。
「お待たせしました! 看護師さんたち忙しいみたいで、なかなかお水をもらえなかったんですよ」
目が真っ赤になっていた。
どこかで泣いていたのだろう。
(心配してくれる人がいるなんて、ありがたいことだ)
ついこの間までは、いつ死んでもいいなんて思っていた
妻が亡くなってから初めて、心穏やかに過ごせた日だった。
ある探偵の懺悔 〜君の遺書に返事を書いた〜 らるむ @Rooha
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