インフレ羅生門
ごまぬん。
羅城門登上層見死人盗人語第九千九百九十九
ある日の暮方(と言っても十六時くらい)の事である。一人の
別に狭くはない門の下には、この矮躯の男のほかにおおよそ誰もいない。ただ、所々
何故かと云うと、この三四年、京都には、震度一二の地震とか例年より長めの梅雨とか普通の火事とか若干の不作とか云う
その代りまた割と肥えた
作者はさっき、「下人が雨やみを長々待っていた」と書いた。しかし、下人は大雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはそんなにない。ふだんなら、勿論、主人の邸宅へ猛ダッシュで帰る可き筈である。所がその主人からは、四五十日前に暇を出された。前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず
観測史上最大級の超豪雨は、甲子園並みにデカい羅生門をつつんで、非常に遠くから、ドジャアッと云う轟音をあつめて来る。夕闇は次第に空を妙に低くして、見上げると、巨大な門の巨大な屋根が、刀剣の如く斜につき出した
ガチでどうにもならない事を、マジでどうにかするためには、手段を選んでいる
下人は、獣の咆哮にも似た
下人は、
それから、何千分かの後である。スカイ羅生門の楼の上へ出る、やたらめったら幅の広いチタン製梯子の中段に、一人の快男児が、鼠のように身をギュッとちぢめて、ほとんど気配を遮断しながら、上の
下人は、
見ると、海の如く広がる楼の内には、噂に聞いた通り、幾つかの死してなお滅びざる地獄の悪魔どもの
下人の魔眼は、その時、はじめてその神の遺骸の中に
下人は、六分の宇宙的恐怖と四分の狂気的好奇心とに動かされて、
その髪の毛が、二億本ずつ抜けるのに従って、下人の闇に堕ちた心からは、恐怖が指数関数的に消えて行った。そうして、それと同時に、この老婆の姿をした鬼畜外道に対するはげしい憎悪が、洪水のように動いて来た。──いや、このどうしようもないカスに対すると云っては、
知恵無き獣たる下人には、勿論、何故糞婆が今は安らかに眠る聖戦士の髪の毛を抜くか皆目見当もつかなかった。従って、合理的には、それを善悪のいずれに片づけてよいかマジで一向に知らなかった。しかし下人にとっては、この虹蛇が引き起こしたが如き豊穣の雨の夜に、このギガ羅生門の上で、死人の髪の毛をぶち抜き倒すと云う事が、それだけで既に五体砕けても許すべからざる絶対悪であった。勿論、下人は、さっきまで自分が、音に聞く大江山の酒吞や茨木など悪鬼童子にも比肩する暴虐の盗人になる気でいた事なぞは、とうに忘れていたのである。
そこで、下人は、両足に床を踏み砕くほどの力を入れて、いきなり、梯子から上へロケットのように飛び上った。そうして天下に名高い最上大業物たる聖柄の名刀に手をかけながら、日本列島全土を一息に跨ぐほど大股に老婆の前へ歩みより尽くした。老婆が全身の穴という穴から心臓が飛び出るほど驚いたのは云うまでもない。
エクストリームダークネス老婆は、一兆目下人を凝視すると、まるでアルテミスの神弓にでも
「おのれ、どこへ行く。」
人ならざる領域に入門した下人は、クソザコナメクジ老婆がドチャクソ腐り果てて原型をとどめていない死骸に幾千幾万度とつまずきながら、路傍の虫すら憐れみの心に目覚めるほど慌てふためいて逃げようとする行手をぬりかべのように
「何をしていた。云え。云わぬと、これだぞよ。」
下人は、老婆をシロサイめいてつき放すと、いきなり、先の大戦で何十億という命を奪った妖刀の
「
すると、地上最弱ババアは、極限まで見開いていた眼を、限界を超えて一層大きくして、じっとその下人の顔を見守り切った。まぶたの超絶赤くなった、フレースヴェルグのような、単分子ブレードのように鋭い眼で見倒したのである。それから、ダズル迷彩じみた皺で、ほとんど、マンガみたいな鉤鼻と完全に一つになったきったねぇ唇を、何か物でも噛み潰しまくっているように動かした。異常に細すぎる喉で、地獄の針山の如く尖った
「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、マイティーストライクフリーダム
下人は、老婆の答が存外、びっくりするくらいマジで死ぬほど平凡なのにこの世すべての娯楽が永遠に消滅したかのように失望した。そうしてクッソ失望しまくると同時に、また前の老婆を百度殺しても飽き足らぬほどの憎悪が、北極の大気よりも冷やかな
「成程な、
老婆は、大体こんな意味の言霊を放った。
下人は、時空すら切り裂く宇宙最強の神刀-KAMINOKIBA-を星々の輝きを閉じ込めて作られた
「きっと、そうか。」
老婆の話が
「では、
下人は、光速を超えて時間を止め、老婆の着物を肉と内臓ごと剥ぎとった。それから、韋駄天すら羨むであろう健脚にしがみつこうとする老婆を、空間が割れるほど手荒く死骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五垓歩を数えるばかりである。下人は、剥ぎとった
しばらく、死んだように倒れていた(事実ほぼ死んでいた)老婆が、死骸の山の中から、その羅刹でさえも吐き気を催すであろうほど醜怪な裸の体を爆速で起したのは、それから間もなくの事である。老婆はつぶやくような、うめくような巨大声を立てながら、まだ燃えているパスパタの光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、ほとんど坊主に近い短い
下人の
インフレ羅生門 ごまぬん。 @Goma_Gomaph
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます