アンデルさんと踊る十二人のお姫様 赤い靴⑦(グリム童話・7,700字)

源公子

第1話 アンデルさんと踊る十二人のお姫様 赤い靴⑦(グリム童話・7,700字)

 昔、ひとりの王様がいました。

 王様には一番姫の二十四歳から、末っ子姫の十二歳まで、十二人のお姫様がいて、

 そろいもそろって大変な器量よしでした。


 お姫様達は、寝台をずらりとならべた大きな部屋で眠ります。

 夜、お姫様達が寝床に入ると、王様は扉をぴたりと閉めて、閂をかけます。

 ところが、朝、王様が扉を開けると、お姫様達の靴は踊りつぶされているのです。


 いったいどうなっているのか、その謎は誰にもとけませんでした。


 そこで、王様はおふれを出しました。

「誰でも、姫達が夜、どこで踊りを踊るのかつきとめた者には、姫達のうちから一人をえらんで嫁にとらせて、余が死んだら、次の王様にしてやる。

 しかし、名乗り出て三日と三晩のうちに秘密を明らかに出来なければ、命を失うものと思え」


 じきに一人の王子が名乗りを上げました。けれども、一日目の夜、王子はぐっすり眠り込んでしまい、二日目の夜も三日目の夜もまるで同じでした。

 王子は、容赦なく首をはねられました。

 それからもたくさんの人々が、この命がけの冒険に名乗りをあげましたが、どの人も、命を落としてしまったのです。




「ねえ一番姉さん、もうやめましょうよ。これで九十九人目になるのよ」


 末っ子姫がそう言うと、一番上の姉さん姫はこう言いました。


「うるさいわね、呪いを解くにはこうするしかないの! それより、私達の今夜はく靴を揃えておいで。間に合わなかったら許さないからね」


 末っ子姫は、しぶしぶお城の外へ出かけました。

 けれども、靴屋は靴を売ってくれません。

 この靴のせいで、三日ごとに人の首がとぶのです。

 それに毎日十二足では、さすがに作るのが間に合いません。

 国中の靴屋を回りましたが、どこもだめでした。

 末っ子姫が泣いていると、妖精のおばあさんが言いました。


「国ざかいの森で、私の名付け子のアンデルさんが、靴屋をやってるよ。

 たしか、赤いダンス靴ならまだ少しあったはず。私に聞いたと言えば、だしてくれるよ」


 末っ子姫はおばあさんにお礼を言って、森の靴屋に行きました。

 靴屋のドアをたたくと、末っ子姫と同じくらいの歳の男の子が立っていました。


「あなたが靴作りのアンデルさんなの?」


「はいそうです。去年、先代のおじいちゃんが亡くなって、ぼくが靴屋のアンデルさんの二代めです。歳は若いけれど、腕は確かですよ」


「赤いダンス靴を十二足欲しいの」


 この店を教えてくれたおばあさんの事を話すと、アンデルさんは、奥から靴の箱を出して来てくれました。なんとか十二足ありました。


 末っ子姫は、喜んで帰って行きました。


 でも、朝になると靴は、踊りつぶされてしまいました。


「昨日の靴はすごく踊りやすくて良かったわ。穴もいつもより小さいから、同じ靴屋で直してもらっておいで」


 一番姉さんにそういわれて、末っ子姫は穴が開いた十二足の靴を持って、アンデルさんの靴屋に直してくれと、言いに行くしかありませんでした。


「いったいどうやったら、一日でこんな風になるの?」


 アンデルさんに聞かれても、末っ子姫は「言えないの」としか、答えられません。


 夜までに十二足ないと叱られると、末っ子姫が言うので、

 アンデルさんは、夜になる前に靴底を貼り直してお城に届けると、約束しました。


 姫が帰ると、アンデルさんは前掛けの紐をほどき、結び目を三つ作り、地面をうちました。すると地面が割れて、小人が三人飛びだしました。働き者のドワーフ達でした。


「何をして欲しいの? アンデルさん」

 三人同時に答えます。


「働き者の、ピフ、パフ、ポリトリー。靴の修理を手伝っておくれ。急ぎ仕事なんだ」


「はい、アンデルさん」

 ピフが答えます。


「僕たち、ホルンテおとっつぁんの代からのお付き合いですから」

 続けてパフが答えます。


「おとっつぁんは、死んだ先代の後を追ってどこまでも土に潜って行ってしまったけど、後を継いだ僕たちは、二代めとずっと一緒です」


 ポリトリーが答えて、“アンデルさんの小人の靴屋”の、いつもの仕事がはじまりました。


 こうして何とか靴を直すと、夕日の頃に、アンデルさんはお城につきました。

 そして首を切り落とされた、九十九人の王子の話を聞いたのです。


 アンデルさんは、靴の秘密をつきとめるため、百人目の名乗りを上げました。

 末っ子姫は驚いて、泣いて止めたけれどだめでした。


 アンデルさんは、用足しに行くと言って隅っこに行くと、結び目を作って、小人をよびだし、名付け親の妖精のおばあさんに、透明マントを借りてくるよう頼みました。


 マントと、三人の小人を隠すと、お姫様の寝る部屋の隣の部屋で、見張りをすることになりました。


 日が暮れると末っ子姫が食事を運んできて、お盆の下でそっと紐のついた皮袋を渡しました。


「中に海綿が入ってるから、一番姉さんが眠り薬入りのワインを持ってきたら、飲むフリをしてここにこぼすの。なんとか私達についてきて、本当のことをお父様に話して。

 私もう、人が死ぬの嫌なの」

 そう言い終わると、すぐ、一番姉さんがワインを持ってきました。

 アンデルさんは飲むふりをして、すぐに寝床でいびきをかいて寝たふりをしました。


「この子だって、命を大切にしようと思えばできたのにねえ」

 一番姫がそう言いました。


 それからお姫さま達は、むくむくと起き上がり、タンスや長持や小箱をあけて、きらびやかなドレスをとりだすと、鏡にむかって身繕いをします。

 お姫さま達は、踊りに行くのでウキウキして、そのへんをとびまわっています。


 すると、末っ子姫が言いました。


「お姉さま達はうかれてるけど、私、胸騒ぎがするの。きっと何か良くない事がおこるわ。今日はやめにしない?」


「あんたったら、いつも白雁みたいにオドオドしてるのね。これまで、何人の王子がムダ骨折ったか、忘れたの? あの靴屋には、眠り薬なんて飲ませなくても、良かったぐらいだわ。目なんか覚ましっこないもの」


 お姫さま達は、すっかり支度が整うと、アンデルさんの様子をうかがいます。


 けれども、アンデルさんは目をぎゅっとつむって、ピクリとも動きません。

 それで、お姫様達は、すっかり大丈夫だと思いこみました。


 そこで一番姫が、自分の寝台のわきへ行って寝台をたたくと、寝台がすうっと床に沈み、お姫様達は一番姫を先頭に、つぎつぎとこの開いた口から地下に降りて行ったのです。


 これをすっかり見ていたアンデルさんは、あのマントをはおって、末っ子姫の後から一緒に降りて行きました。

 末っ子姫は、アンデルさんがついて来てるかと、なんども後ろを見るので、遅れぎみでした。それでアンデルさんは、ちょっとドレスを引っ張りました。


「きゃっ」

 末っ子姫は、ビックリして叫びました。


「シッ僕だよ、進んで」


 アンデルさんの声にホッとした末っ子姫は、一番姫に


「どうかしたの?」と聞かれても、


「なんでもないの、ドレスが鉤に、引っかかったの」

 とごまかしました。


 下に降りると、そこはなんとも見事な並木道でした。

 木の葉はどれもこれも銀でキラキラ輝いています。

 アンデルさんは、

「証拠の品を持っていこう」

 と考えて、ひと枝折りました。


 すると木は、ポッキーンと、とてつもない音を立てました。


「何? 今の音」 

 一番姫が、叫びました。


「あら、あれはお祝いの大砲の音よ。だって私達がもうすぐ王子様達を救ってさしあげるんですもの」


「そうかしら? だけど後三日通えば、呪いがとけて王子様達は自由になれるんですものね。そうしたら私達も一緒に、あのうるさいお父様から自由になれるのよ」

 一番姫は、ニコニコしながらそう言いました。


「アンデルさん、もう音たてないで!」


 末っ子姫がおびえきっていたので、アンデルさんは次の金の並木道も、ダイヤモンドの並木道も、もう枝を折るのはやめました。


 それからもっと歩いて行くと、大きな川のほとりに出ました。

 川には、小さな舟が十二艘浮かんでいて、きれいな王子が一人ずつ乗っていました。

 十二人のお姫様を待ち受けていた王子達は、一人が一人ずつお姫様を乗せました。

 アンデルさんは、末っ子姫の舟に乗りこみました。



 その舟の王子が言いました。


「おかしいなあ、今日はいつもよりも舟がずんと重い。ありったけの力を出して漕がないと、ちっとも前へ進めやしない」


「それはね、今日はこんなにあたたかいせいよ。わたしも暑くてならないもの、ホラ、こんなに汗が出てる」

 末っ子姫は、冷や汗をそう言ってごまかしました。


 向こう岸には、あかあかと灯火のともった、りっぱな城がありました。

 太鼓やらラッパやらの楽しげな音楽が聞こえてきます。

 王子達とお姫様達は、川を漕ぎわたると城に入っていきました。

 そして、王子達はいちばんお気に入りのお姫様をお相手にして、踊りだしました。


 アンデルさんが、お姫様達の飲んだワインの盃を、ひょいひょいと証拠にもっていくので、末っ子姫は不安でなりませんでしたが、黙っていました。



 見えないのをいいことに、アンデルさんも、一緒に踊って楽しんでいたその時、ポケットに入って隠れていたポリトリーが、小さく叫びました。


「アンデルさん、王子様達の靴の裏みて! 靴の裏の“d”のマーク、あれは、ドワーフの作った靴のマークだ。それも、僕達のおとっつぁんのだよ」

 アンデルさんが、ここへ来たのは、姫様達の靴の謎をとくためでしたが、姫達が踊るお相手の靴を、いったいだれが作っているのかも、知りたかったのです。

 だって、毎日十二足なんですものね。


 どうやら靴を直しているのは、死んだアンデルさんのおじいちゃんの後を追いかけて、どこまでも土の中へと潜っていった、ホルンテおとっつぁんのようです。


 アンデルさんと小人達は、必死に探しましたが、地下の世界は広すぎて探しきれませんでした。


 お姫様達は、城で明け方の三時まで踊りました。

 すると靴がぼろぼろになったので、もうやめなければならなくなりました。


 アンデルさんは小人達に、地下に残ってホルンテおとっつぁんを探すよう頼むと、姫達について帰ることにしました。


 王子達は、お姫様達を舟に乗せて向こう岸まで送って行きました。

 アンデルさんは、今度は一番姫の舟にのりました。


 王子が「重い、重い」と言うので、一番姫は「まあ、失礼ね」と怒ってしまいました。


 岸に着くと、お姫様達は、それぞれお相手の王子にさようならをいって、

「今晩もまたまいります」と約束しました。


 階段を上るとき、アンデルさんはいの一番に駆け上がって、寝床にもぐりこみました。


 十二人のお姫様が、のろのろと疲れた足を引きずって上がってきたときには、アンデルさんは、ぐうぐうと高いびきをかいていました。


 一番姫は言いました。

「この人なら、私達の秘密は見破られっこないわ」

 そして、きれいなドレスを脱いでかたづけると、踊りつぶした靴を寝台の下にそろえて、横になりました。



 ◇



 次の朝、アンデルさんは、知らんぷりをしていました。

 そして、姫様たちの穴のあいた靴を直しに森へと帰ると、名付け親の妖精のおばあさんを呼びだしました。


「おや、アンデルさんや、マントはもういいのかい?」


「おばあさん、マントはあと二日貸しておくれ。それから、“時戻しの水薬”も出してほしいんだ。どうしても、修理の間に合わない靴があるから」


「おやおや、あの水薬は貴重品なんだよ。でもお前のおじいちゃんには、シンデレラの靴の時、お世話になったからねえ。あの頃は私も若かったよ……ところでいつもの小人達はどうしたんだい?」


「他の用事をさせてるよ。そうだ、おばあさんなら、地下に閉じ込められた十二人の王子達の噂を聞いたことないかな。呪いをかけられてると聞いたんだけど」


「そうだね、聞いたことはあるね。でもあれは呪いっていうより、罠だね」


「罠とは、どういうこと?」


「あの、地下の王子達は、地下から出たくて、自分たちの運命の身代わりをさがして、運命を取り替えっこしようとしてるのさ。

 一年間一緒に踊り通せたら、王子達の運命は、相手にうつり、自由になって地上の世界へいける。でも相手をした姫達は、かわりに地下の世界に閉じ込められてしまうんだよ」


「もしかして、地下の世界って、死の国なのかい?」


「そうさ。死んだ人間が地上に戻ろうとするなんて、あっちゃあならない話さね」


「おばあさん、お願いだ。“時戻しの水薬”ひと瓶と、“時進みの水薬”ひと瓶、ぼくにくれないか? 助けなきゃならない人達がいるんだ」


 ◇


 そうして、二日目の夜が来ました。アンデルさんはまた、姫達について行きました。二日目も、何から何までおんなじでした。


 お姫様達の踊りがはじまると、アンデルさんは

「ピフ、パフ、ポリトリー」と、呼びました。


「二代目さん、こっち」小人達が呼ぶ声がしました。


 声のした方へ行くと、鎖に繋がれて、小人のホルンテおとっつぁんが王子達の靴を作っていました。アンデルさんのおじいちゃんも一緒です。

 一年前に捕まって、二人はずっと靴を作らされていたのです。


 おじいちゃんは善行を積んでいたので、御使いと天国に行くはずだったのを、ホルンテおとっつぁんが、一緒に連れてってくれとすがりついて離れないので、とうとうここに置き去りにされたのです。ホルンテの分の善行が一つ足らなかったからです。


 ホルンテおとっつぁんは、自分のせいだとずっと悔やんで泣き続け、涙の池が出来ていました。


 アンデルさんはおじいちゃんと相談し、明日の分の十二人の王子様達には白い靴、十二人のお姫様達には可愛い鈴の付いた赤い靴を作りました。


 そうして王子達の靴底の鋲には、たっぷりと“時進みの水薬”を。

 姫様達の鈴には“時戻しの水薬”を塗って、音を立てるごとに時が 一日進んだり戻ったりするようにしました。


 なんとか夜明けまでに作り終えると、アンデルさんは赤い靴を十二足、音を立てないようマントに隠すと、一番姫の舟に乗りました。


「今日はまた特別に重い」と漕ぎ手の王子が言うので、一番姫はすっかりむくれてしまいました。


 ◇


「アンデルさん、今日で最後なのよ。もう、理由はわかってるでしょう? お父様に本当のこと言ってお姉さま達をとめて。呪いが解けたら私達、王子達と結婚する約束なのよ」


 一番姫に逆らえないだけで、結婚などしたくない末っ子姫はべそをかいています。

「心配しないで、この靴がうまくやってくれるから」


 アンデルさんは、鈴の付いた十二足の靴を渡しながらそう言いました。


「私に出来ることない?」


 末っ子姫の必死な目を見たアンデルさんは、


「じゃあね、四つ葉のクローバーを十二本見つけなきゃならないんだけど、手伝ってね」

 二人は、夕方までに見つけることができました。



 ◇


 そうして三日目の夜が来ました。


「あら、今日の赤い靴は、いつもと感じが違うのね」


「つま先がクルリとしてて、鈴がついてる。可愛い」


 お姫様達は、アンデルさんの新しい靴に大喜び。姫様達の靴の鈴は歩くたびにシャンシャンときれいに鳴ります。


 今日がついに一年目。王子達の呪いがとけて、姫様達も一緒に自由になれるのです。


 一人浮かない顔は、末っ子姫。アンデルさんが、百人目になるのを心配しているのです。


 大丈夫だからと、末っ子姫を安心させて、アンデルさんは姫達の後を隠れて追いかけます。


 王子達が姫様達を舟に乗せると、てんでに「今日はなんだか、舟が軽い」と、言いました。でも、アンデルさんの乗った、一番姫の舟だけはやっぱり重かったようです。




 お姫様達の踊りが始まると、アンデルさんは、おじいちゃんとホルンテおとっつぁんの鎖を外して、物陰からそっと踊りを見物していました。

 四人の小人達は、靴の革で紐を作っていました。


 シャンシャンと、軽やかに鳴る踊りの輪の動きが、一歩ごとにだんだんと遅くなり、お姫様達の背丈はどんどん縮み、明け方の三時には、一番姫は、ついに半分くらいになり、末っ子姫は赤ちゃんにまで戻ってしまっていました。


 対する王子達は、ヨボヨボのおじいさんになり、床に座りこんだのを、マントを脱いだアンデルさん達に、革紐でしばりあげられてしまいました。


 アンデルさんが末っ子姫と取ってきた四つ葉のクローバーを、十二人の姫のおでこにはると、心の目が開けて、初めて王子達の本当の姿がお姫様達に見えました。

 死んで肉が腐って溶けた姿に、お姫様達は悲鳴をあげました。


 そうして、ブカブカになって脱げた服を、おじいちゃんとアンデルさんと小人達が持って、一番姫が七番姫をおぶって二番姫が次をおぶって、六組の姫達を三つの舟にのせ、舟を革紐で繋いでみんな川を渡りました。


 渡り終えると、御使いが立っていました。


 おじいちゃんとホルンテおとっつぁんに

「善行の数が必要なだけ満ちたので、一緒に天国へ参りましょう」

 と言いました。


 アンデルさんと、ピフ、パフ、ポリトリーは天に昇る二人が見えなくなるまで、ずっと

 手をふりつづけました。


 アンデルさんは、帰る途中ダイヤモンドの枝と、金の枝を証拠に折り取りました。

 すごい音がしましたが、誰も文句を言いませんでした。

 お城に戻ると、アンデルさんは“時進みの水薬”で、お姫様達を元に戻してやりました。



 ◇



 さて、王様にお答えをしなくてはならないときがきました。アンデルさんは、三本の枝と杯を、前掛けのポケットにいれて、王様の前にまかり出ました。

 十二人のお姫様も神妙に控えています。


 王様がたずねました。

「私の十二人の娘達は、よる夜中、いったいどこで踊って靴をボロボロにしてくるのだ?」

「お相手は十二人の王子様達、場所は地の底のお城でございます」


 アンデルさんはそう答えて、何があったのかを、証拠の品じなも出してお話ししました。

(姫様達の名誉のため、一部は、語られませんでした)


 そこで王様は、お姫様達に、「この靴屋の言うことは、ほんとうか」

 と問い質しました。


 お姫様達は「何もかもそのとおりです」と言いました。


 すると王様は、

「どの姫を嫁にしたいか」

 とアンデルさんにたずねました。


 アンデルさんは言いました。

「僕は、お嫁さんをもらうには若すぎます。

 もっと修行して、一人前になってからにします。

 王様になるのも遠慮します。僕は靴屋以外には、なりたくないので。

 でも、三日分の靴の代金だけは払っていただきます。かなり高いですよ。

 費用の計算が終わったら伺います」


 そう言うと、アンデルさんは森に向かってすたすた帰っていきました。

 ところが、後ろを振り向くと末っ子姫が付いてきます。


 とうとう、森の家まで付いて来た姫は、額に付けたままだった、四つ葉のクローバーを取り、アンデルさんのおでこに付けました。

 それで末っ子姫の気持ちが、アンデルさんに丸見えになったので、アンデルさんは末っ子姫を家に入れてやりました。

 だから、靴のお代は花嫁料として、“無し”になってしまいました。




 残りの十一人の姫達は、てんでに嫁いでいきましたが、神様の罰だったのか、だれ一人、子宝に恵まれませんでした。

 結局、末っ子姫の産んだ十二人の子供達の一番上の兄さんが、次の王様になったのでした。



 このお話は今聞いたばっかり。お話ししてくれた人の口からは、ほかほか湯気がたってますよ。 


             2018ブックショートアワード投稿・2019年3月脱稿

             原案 グリム童話「小人の靴屋」「踊りつぶされた靴」














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アンデルさんと踊る十二人のお姫様 赤い靴⑦(グリム童話・7,700字) 源公子 @kim-heki13

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