第8話 その後

 事件から一週間後、相変わらずの開店準備中に、鈴は今回の事件のあらましを唯鈴のモメラに書き記していた。


 あれから小倉は病院に搬送され、美沙はそれに付き添った。もちろん警察の事情聴取などもありながらも、美沙は毎日小倉の病室に通っている。


「結局、配信者続けてますね」


 唯鈴が角砂糖にミルクを入れたコーヒーを鈴の前に置き、隣に座った。そのまま鈴の肩に頭を乗せて、一緒にモメラの画面を見る。


「彼の意志を彼女は受け継いだんだ」

「凄かったですよね、小倉さん」

「ああいうのを器が大きいと言うんだろうね」

「美沙さん、すっかり惚れちゃったみたいですよ」


 その言葉を聞いて、鈴は難しい顔をしてしまった。


「だが小倉くんのほうはなあ……」

「リスナーの鑑ですね」

「そうそう、配信者とリスナーでいたいって言うんだよなあ」


 カランコロン、と音が鳴る。扉のほうを振り返ると、美沙がお辞儀をして立っていた。唯鈴が彼女を招き入れると、美沙は茶封筒を鈴に差し出す。


「お二人には本当に感謝してもしきれません」

「あー、報酬! ありがとうございます!」

「どれどれ……」


 一万円札が一枚、二枚、三枚……三十枚入っていた。鈴は手の震えを必死でこらえながら、茶封筒を唯鈴に託し、立ち上がる。コーヒーを淹れようとする鈴を美沙が制止した。


「私、もう帰りますね。今回は本当に、ありがとうございました!」

「え、もう帰るの? 一服してけばいいのに」

「配信、したいですから!」

「そっか、そうだね。応援してる」

「私もー! チャンネル登録しましたー!」


 唯鈴が笑顔でスマホの画面を見せびらかすと、美沙はふふっと口元をおさえて笑った。その笑顔のまま、二人に手を振って美沙が帰っていく。


「本当、たくましい人たちだな」

「あはは、先生が言うんですかそれー」

「むむ、どういう意味?」

「ご自分の大きな胸に手を当てて考えてください」

「なんだよもう」


 鈴は笑顔で再び事の顛末を書き記し、モメラを閉じる。それから大きく伸びをして、スマホを取り出し、ワイチューブアプリを開いた。見るのはもちろん、美沙の昨晩の配信アーカイブだ。途中再生で止まっていた面白い場面を見て大笑いしていると、背後に気配を感じた。


「先生! 書き終わったなら仕事してくださいよー!」





 ぽんつく探偵レイ先生、特定厨になる――完。

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ぽんつく探偵レイ先生、特定厨になる【シリーズ1作目】 鴻上ヒロ @asamesikaijumedamayaki

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