僕だけが見分けられる双子事情。/The Return of the King。

渡貫とゐち

第1話 幼い王の事情。


舞浜まいはま しずく


「おかーさん、ほっとけーきたべたい」

「ホットケーキ? ……ほんと、志吹しぶきはホットケーキが好きよね」


 幼い頃の私の嘘に、お母さんはまんまと騙されていた。

 ついつい魔が差して妹を演じてみれば、面白いくらいに疑われることもなくて…………お母さんは私がホットケーキを食べ終わるまで、私が雫(しずく・姉)であることに気が付かなかった。


「ごちそうさまでした」

「はーい。……雫には内緒よ? あの子、今ぐっすりとお昼寝してるから」

「うん!」


 雫は私なんだけど。

 双子の妹、志吹は、夕方まで起きてこなかった。おやつの時間のホットケーキをあの子も楽しみにしていたはずだけど、当時はまだ小学生でもなかったし、睡魔に負けて好物が食べられなくても気にしなかったのだろう。


「おきて、しぶき。夜ごはんの時間だよ。その前におふろだけど」

「ん…………ねぇね?」

「うん、ねぇねだよ!」


 鏡を見ているように瓜二つ、よりも似ている私たち双子は、両親でさえ見分けがつかなかった。

 私を見て志吹と言うし、志吹を見て雫と呼ぶのは当たり前で、舞浜まいはま家では珍しいことでもなかった。


 だから髪飾りで判別できるようにしている。私が赤で、妹が青。髪飾りがなければ口調で分かるようにだってしていた。

 私が女の子らしくすれば妹は自然と男の子っぽく振る舞うようになっていた。

 誰がなにを言ったわけでもないけど……志吹が自分で見つけた「見分けてもらいやすくする」ための意図したポイントなのだろう。


 だから双子としての色は昔から決まっていたのだった。

 姉はこうで、妹はこういうもの、というパッケージができてしまえば、それに沿って演じてしまえば相手を騙しやすいということでもある。


 そのことに、幼い時期から気づけたのは運が良かった。まあ、私なら遅くても小学校に入れば半年も経たずに気づいていただろうけど……という自負はある。


 だって私は天才だから。



「ねぇね……おなかすいた……」


 ぐう、と妹のお腹が鳴った。

 寝起きの妹の手を引いてまずはお風呂に入って……夕飯はその後だ。


 お腹すいたー、とわがままを言い続ける妹の注意を引きながら、当時の私はお姉ちゃんとして立派に振る舞っていた。数秒の差で早く生まれただけなんだけど……その差が、どうやら大きかったみたいで――志吹に私ほどの才能はなかった。


 私が吸い取ってしまったみたいに。……まあ、才能と言っても色々あるけど。

 志吹の場合は運動神経は良かったみたい(私が悪いというわけでもないが)――だけどそれだけだ。勉強、人付き合い、人心掌握などは壊滅的だ。そういうのは私の担当だった。


 私が先に生まれたのは、無意識に妹を踏み台にしてお母さんの中から出てきた、という説もあるかもしれない。私が踏むべくして踏んで、出るべくして出たのだろう。


 人の上に立つ姉(私)だった。

 長の上に立つ王(私)だった。


 私の人生に、誤算なんてあってはならないのだ。


 ――でも、たったひとつだけ、誤算があった。大問題を避けるために対処をしたら、悪い方向に捻じ曲がってしまったとすれば、対処をしなければもっと悪い方向へ進んでしまっていた可能性もあるから、私のミスとも言い切れないけど……。


 いや、認める。うん、私のミスだ。もっと上手くできたはずだ。私なら、できたはずだけど。


 手癖で対処してしまったのが私の唯一のミス。自分を信じ過ぎるのもよくないことが学べたとすれば、勉強代としては安い方だ。


 とにかく、彼の存在が、ネックだった。

 どうするべきか迷った。迷ったけど……一瞬だけだ――だからすぐに答えは出た。


 難しく考える必要はなかったのだ。原因が分かれば対処ができる。目の前の問題を片付ければおのずと元に戻るはずだから――――私は彼にお願いをした。


 可愛い恋人のお願いを、無下にはできないでしょう?



「――妹とも仲良くしてくれる? お願い、ももくん」

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