第8話 The Return of the King。


(舞浜 雫)


 まるでカップルのように腕を組んで教室へ向かう桃くんと、『妹』を見送る。

 青い髪飾りを付けた私が、雫(私)なのだけど……桃くんは気づいていなかった。


 私たち姉妹を、完全に、見分けられていなかった――――……長かった、と思う。

 やっと、リセットできた。


 ――私たちを見分けられる人は、ひとりだっていてはならないのだから。


「(双子の特権は入れ替われることなの。桃くんが見分けられちゃったら、その特権が使えなくなっちゃうでしょ? それは困るの――――だからごめんね)」


 妹のいじめの尻拭いで優しくしたわけじゃない。

 もっと言えば桃くんを『いじめたのは私』だし、弱った桃くんに優しくして私に依存させたのも私。志吹はただの協力者だったの。妹は姉に逆らえなくて、ただの人は王には逆らえないから――志吹はなにも悪くない。


 あの子は褒められることしかしていない。昔から、私は君が欲しかった――桃くん。


 安土あづち桃太郎ももたろうくん。

 私は君を認めてる……いえ、脅威に感じてる。私と同じだから。ハイスペックで人心掌握に長けている私と君は、きっと対立するだろうし、もしもそうなれば、私は君に勝てるだろうけど、苦戦することは目に見えていたから――。

 敵に回したくない人は敵という枠から追い出してしまえば戦うこともないの。だからお付き合いをしたの。


 君は、恋人を追い詰めたりはしない人でしょう?


「――志吹?」


 立ち止まった私を心配して声をかけてくれた桃くん。

 でも、私を見てもやっぱり、志吹と呼ぶのね。そう促したのは私だけど……さ。


 それでも、ちょっとの不満は出るものだった。




【イントロ…完】

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僕だけが見分けられる双子事情。/The Return of the King。 渡貫とゐち @josho

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