「――鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰かな?」
「もちろん、あなたの妹様ですね」
喋る手鏡だった。
私の顔だけを映す鏡を強く振ると、水面に石を落としたみたいに波紋が広がる。
うぇえぇえ、と、鏡らしくない声が聞こえてきた。
「鏡よ鏡? この世界で、一番美しいのは、誰なのかな? 空気を読んでよね?」
「あ、あなたの母上様、でございまぶえええ!?」
「このっ、このっ! 絶対に私って言わないわよねえこのへっぽこ鏡め!!」
悪ノリじゃなくてちゃんと考えた結果、妹や母、祖母や叔母のことしか言わない鏡である。
同じ系統の顔だから、差が分かりやすく出るのは分かるけど……
苺とメロンはどっちが美味しいのか、と考えたら、どっちにも良さがあることで選びにくいものの、同じフルーツで、産地による味の差となると、はっきりと順位が明言できてしまう――みたいなものかもしれない。
似ている顔が並べば、私は勝ち目がない。
妹は分かるけど、私ってお母さんにも勝てないの!?
「はぁ、はぁ、はぁ……ポンコツ鏡め……『あなた様です』って言えばいいのに頑なに言わないわよね……っ」
「う、嘘はつきたくないですし」
「きぃー! というか妹よりも美人なんてごまんといるでしょ。なんで世界で一番、って聞き方をしてるのにこの家の中で完結しちゃうのよ、視野を広げなさいよ!!」
言ってから、もしかして手鏡だから、視野が狭いのかもしれない、と思い立つ。
壁にかけるような大きな鏡は、そう言えばもっと視野が広かったような……?
「し、仕方ないでしょ……だって映したものしか分かりませんもの」
鏡の中に映った者のデータしかなく、つまり我が家の女性陣の顔しか、この手鏡には映っていないことになるため……参加者はせいぜい四人だ。
この四人のことを『世界』と言っているようなものだった……。
そりゃ、いつ聞いても母か妹しか出てこないわけである。
たまに叔母もいるけど……それは妹と母の調子が悪い時である。
そのため、私の質問は四人で回していることになるのだ……狭っ。
視野が狭い手鏡に、一番の美人は? の質問の答えを教えてもらっても信用できないな……なので私が美人である可能性も、普通の鏡よりは高いのだった。
「……ねえ、あなたを外に持っていった方がいいの? 人を映せば検索性能に繋がったりする?」
「ええまあ。でも、それをするとあなた様が浮上することはもう一生ないのでは?」
「おいどういう意味よポンコツ手鏡」
鏡面を割ってやろうかと思った。
しかし水面のような波紋を映しているので、叩きつけても割れることはなさそうだ。
・・・おわり