「【ステータスオープン】! ……そう唱えれば、お前の目の前にメニューウィンドウが広がるはずだ」
師匠の言う通りに、素直に「ステータスオープンっ」と詠唱すると――本当に目の前に文字と数字が並んだ、小さな窓が出てきた。
はえー、師匠の嘘じゃなかったんだな。
「見えたか?」
「うん。あれ? 師匠は見えてないの?」
「見えるわけないだろ。それはお前だけが見られるプライバシーの塊だぞ」
確かに、名前、レベル、身長体重や細かいプロフィールまで、隅々まで載っている。僕が知らない僕のことまで書かれているのはどうしてだろう。
自分しか見ることがないとしても、性癖まで記載されているのはいかがなものか。文字にされると自分のことながら引くんだけども。
他にもスキルや、称号? というものもあるらしい。
今のところ空欄だったけど、いずれ埋まるのだろう。
「ちなみにギルドでカード化することもできる。その時に初めて、他人の目に触れるわけだな」
「なんでそんな酷いことをするの!?」
「なにを焦って……、なんかマズイことでも書いてあったのか?」
誤魔化すように首を左右に振って――
だけど師匠はニヤニヤと僕を見下ろしている。
「前科でもついてたか? くく、楽しみだ」
「見せないからね?」
冗談はこれくらいにして、師匠直々の手ほどきの続きだ。
ウィンドウを開くことができたら……目の前にある窓を脇に寄せることもできるらしい……たとえばこう、指でタッチして、引っ張る、もしくは弾く、みたいに……。
「横にさっと流してみろ。視界の隅に置くんだ。ウィンドウで目の前が見えなくなって事故る、とか、バカみたいな死に方はしたくないだろ?」
実際、そういう死に方は少なくないらしい。
メニューウィンドウに目の前を塞がれて――脇見戦闘していればそりゃ死ぬに決まってる。
慣れてきた頃が一番危ないのだそうだ。
「そんなヘマはしないよ」
「どーだかな」
師匠からの信用がなかった。なんでよっ、と不満を抱いたのが失敗だった。
思わず力が入ってしまい、フリックするだけなのに、不要な力をぐっと入れてしまった。
横へずらすだけのつもりが、勢いよく横へ振ってしまったために、メニューウィンドウが視界の外へ――――あーれー、と、まるですっぽ抜けたみたいに飛んでいく。
僕しか見られないとは言え、個人情報の塊が森の中へ突き進んでいった。
「あっ、ちょ、待てッッ!!」
背中から聞こえてくる師匠の制止の声も無視して、横へ飛んでいくウィンドウを追いかける。
全力疾走して――森の中。
地面にはすぱっと、綺麗な切り口があって……その痕跡を追っていくと――魔獣がいた。
僕のウィンドウの角に、胴体を貫かれて絶命している、熊の魔獣。
魔獣は、大木に、両足を浮かせて磔にされていて……。
「…………えーっと、【閉じる】?」
呟くと、ウィンドウが消え、ずしんっっ、と大地を揺らすほど巨体の魔獣が落ちる。
……この魔獣、そう言えば最近、頻繁に森を荒らしている、S級(つまり超強い)冒険者が担当するような、めちゃくちゃ危険な魔獣なんじゃ……?
それがまさか、メニューウィンドウの角で、一突き、だなんて――――
「剣より強いじゃん、メニューウィンドウ……」
・・・おわり