筆を折る
保志見祐花
第1話 物理的じゃなくてメンタル的な「筆を折る」
二年だ。
創作を始めて二年。
創作家が「筆を折る」という結論に至る時期。
ココがまず山場なんだと、最近自分も身をもって知った。
創作アカウントを作り、一次創作の界隈に来て二年。当時活発に動いていた人は消え失せ、見かけないと思いアカウントを探しに行くと、半年以上動いていないなんてザラにある。酷い人はアカウントも無くなっている。
諸行無常というか。
跡形もなく書き消えたデータの向こうにいたはずの人に寂しさが募る。
一年ぐらい前のわたしは、「ああ、いなくなったなあ」ぐらいにしか思わなかった。
「インターネット」と呼ばれるものに触れて、そういう世界を見て、もう十年以上。特別親しくしていなければ、いや、親しくしていても、そういう「別れのダメージ」には強くなっていた。
小説を書いていたアカウントにしてもそうだ。
「小説家になるの諦めたんだろうな」「きつかったのかな」「まだ続けていればなんとかなるかもしれないのに、もったいない」と。
「なんで辞めちゃうんだろう」と思っていた。
しかし、戦ってみればわかる。
これは本当にきつい。
おそらく「コンテスト」を重ねれば重ねるほど、期間が長ければ長いほどきつくなる。
なぜなら、周りはどんどん「なんらかの成果」を残して、ステージを変えていくから。
それに対して、自分は埋まったまま、何の成果もあげられていないように思えるから。
※
一年目はまだいいのだ。
「初めてだし通るわけないよね」とか。
「閲覧取れてないし無理だよね」とか。
それなりに駄目だった理由も見つけやすいし、自分を慰めることが容易だ。
しかし二年目にもなると、「また駄目だった」がまとわりつくようになる。
「次世代を作る新しいファンタジーを募集します!」の出版社の企画の文言を真に受けて、「新しい物語です!」と堂々
「おい、新しいっつったじゃねーかよ、あ゛?」と怒りも出るし、そのたびに「ああ、また駄目だった」「こんなに楽しい話なのに」「うちの子のどこが駄目だったんだろう」「ねえ、答えはどこにあるんだよ」と虚無をたたえてTLを眺め、自分の話にため息をつく。
でも、どうしようもなく自分の書いた話が好きだし、元気も貰えるものだから、「才能ないんだ!書くのやめる!」にもなれない。そんな葛藤が、自分を執着させ意固地になっていく。
そして、自己回復ではままならなくなってくる。素直に「おめでとう」も言えない自分に嫌気も刺すし、TLで愚痴だって零したくなる。
「駄目」が重なると、ヒトは自分を失うんだと。自分を励ます力も無くなるんだと、ここにきてやっと実感した。
「素直におめでとうと言えない」とか。
「恨み節を言いたくなる」とか。
創作論を読んでいると、通らなかった人は皆そういう気持ちに呑まれており、「そうだよね」と納得もするのだけど、ひとつ。それに加えて私個人が辟易としていることがある。
それは「小説コンテストのソシャゲイベント化」だ。
スマホのソーシャルゲームをやったことがあるだろうか?あれらはサーバーを立て管理しなければならないため、常に動かし続けなければならない。
ガチャのピックアップや、マラソン(順位)イベントなどをひっきりなしに立て、ユーザーに金を使わせるのだ。イベントが終わればイベントが始まる。舌の根も乾かぬうちに繰り出されるのである。
今の小説コンテストのようにね。
名前は出さないけど、とあるコンテストなんて「結果発表」の次の週には「次回コンテスト開催!」と知らせが来る。まるで本当にガチャイベだ。息をつく暇も、落ち込む時間も与えてくれない。
…………大変萎える。
傷む心を治す間もなく、塩を塗られ酸でもかけられた気分になる。
自分を振った相手が「誰か遊んで―!」と目の前で言うような。面接に行って落ちた会社が「急募!一緒に働きましょう!」と募集をかけているのを見た時のような。
「私がいましたけど!!!???」
「ねえ、おい!!!」と叫びたくなる。
「おいなあ、ここにいるけど!!?見えてる!!?」
と顔を掴んでこっちを向かせたくなる。
きっとそれは、自分だけじゃないと思う。
そして次には、こう思うのだ。
「あのさ、書籍化しても一巻二巻で終わっちゃうって話たくさん聞くのに、まだ新しいのを求めるの?書籍化作品大事にしないの?育てる気あるの?宣伝しまくるとかした?その作家さんたちが報われることした?「コミカライズ確約!」っていうけど、コミカライズできるだけの技量がある人は確保できてるの?」
小一時間問い詰めたくなる。
それぐらいげんなりしている。
出版社の事情も分かる。
戦える球はいくらでも欲しいし、ちゃんと新作を出していかなきゃいけないのもわかる。
だけど、いかんせん多くない?
書籍化作家さんが凹んだ様子で「打ち切りになりました……」ってポストするの見ていられない。もっと大事に育てて欲しいと思う。せめて最後まで書かせてと思う。
そっちは「数あるうちのひとつ」かもしれないけど、こっちはマジでいろんなものをつぎ込んでるんだけどな~~~~~~~~~~~~~~と、やさぐれたくもなるのである。
そして、みんな折れてしまうのだ。
他にも理由はあると思うが、これも理由の一つだと思う。
※
私は、まだ筆はおらない。
何故なら当初から「エリックとミリアの話を書き終えるまで、誰にも読まれなくても、大きくなっても小さくなっても書ききる」と決めたからである。
なんでもいいのだ。
書いていたいのだ。
結果や名誉が着くのなら、書き終わった後で良い。
いっそなくても構わない。
私の脳内で動き回る彼らを形にしたい。
物語としてあらわしていきたい。
そんな気持ちは、いまだ変わらない。
何度コンテストに落ちようが、悔しい思いをしようが、変わることのない基盤だ。
ここに来て二年。
書き始めた時の信念を、もう一度確かめて、私は彼らの物語を綴っていく。
筆を折る 保志見祐花 @hoshiyuka
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