第38話
五日目 ルファ
「やっほ〜。今日はどうするの?」
と待ち合わせして会った瞬間にルファに先手を打たれる。
正直ルファに合わせようと思って何も考えていなかった俺は、
「いや……何も考えてなかったんだが……。逆にルファはどこか行きたいところはないのか?」
と逆に聞くが、
「いやー、そこは男らしく行くところを決めて欲しいかな。誘ったのソウヤの方だし?」
と見事に切り返されてしまった。
本当に何も考えていなかった俺は少し固まり、ようやく、
「な、なら、少し街の外に出てみるか? 俺も久しぶりに『採取屋』として活動しておきたいし」
と絞り出す。ルファは俺が決めるなら何でも良かったのか、
「んー、いいよ! なら街の外へれっつごー!」
と適当なテンションで口にする。良いのか、それで。
ともかく、俺は「採取屋」の活動をするために、ルファはその見学ということで一緒に街の外へ出た。
王都の外は暫く平原が続く。なので、採れる素材は主に植物系のものと、たまに見かける魔物の素材である。
ということで、王都から少し離れた草原で二人して薬草を集めていると、
「ねえー、これほんとに仕事になるのー?」
とルファが聞いてくる。確かに、パッと見簡単な作業に思えるよな、採取って。しかもただ薬草を集めるだけ。だが、
「あのな、薬草ってのは俺たちみたいな戦う人が使うだけじゃない。普段の生活で怪我をしたり病気になったりしたときにも使うんだ。だから意外に年がら年中一定の需要があるんだよ」
「でも、ウチらがやらなくても良くない? ウチら、結構戦えるのに」
うん、結構ではなくすごく戦える人なのはわかっている。再確認だが個人でプラチナランクの冒険者というのは、王国近衛騎士団の隊長クラスに強いということだ。その強さは一般騎士が束になってようやく勝てるような魔物を一人で討伐してしまうような常軌を逸したものだ。それが薬草の採取だなんて……と思うかもしれない。だが、
「うーんとな、薬草採取ってなかなか大変なんだぞ」
「大変? どのあたりが?」
『ヴィーナス』だって下積み時代はあっただろうに、忘れてしまったか?
「まず、薬草がどれか見分ける知識が必要になる。それと、いざというときに戦える力もな。今日は魔物がいないけど、魔物に遭遇したら自分の身を守る手段がないと危険だからな」
「うーん、でも、こういうのってもっとランクの低い冒険者に回した方がいいんじゃないの?」
おっと、良いところに気がついたな。確かに、こういう仕事は低ランクの冒険者が食い扶持を繋ぐために重宝されている。だけど……
「でも、資源の量は限られているだろ?」
「! あ、そっか! 【採取】スキルの効果ね! 確かに、採取できる量が増えるならその方が嬉しいのか」
そうだ。そして、
「それに王都から少し離れたところにわざわざ来ているから、低ランクの冒険者とかち合うことはそうそうないよ」
「えー、すごーい! そこまで考えてやってるんだね!」
……逆にそこまで考えてないのか、『ヴィーナス』のリーダーは。プラチナランクのパーティー、これで大丈夫なのか?
「さて、薬草はこの辺りでいいだろう。じゃあそろそろ帰ろうか」
「えっ、もう帰るの?」
薬草採取の意義を教えたら逆に熱中し始めてしまったか? もう日は高く昇っている。今帰り始めればまだ日がある内に王都に帰れるだろう。
「じゃあちょっとだけ手合わせして帰ろうよ」
お? これは意外な提案。まあ確かに、久しぶりに剣を振るっておくのもありだな。ということで、
「おお、いいな。じゃあ木剣出すから、一本取ってくれ」
そうして突如始まったルファとの一戦。正直まだ勝てる気はしていないがそれはそれ。負ける気で挑むのも失礼だし男が廃るというものだ。
しかも、スキルから記憶を引き出してからというもの、ただの「剣士」から「剣豪」くらいにはパワーアップした気がするのも確か。ここは勝つ気でいっちょやってみよう。
と思っていた時が俺にもありました。確かに俺の剣の腕はだいぶ上がっていた。それはルファに褒められるくらいだから明らかだ。
でも流石はプラチナランクの冒険者、踏んできた場数が違う。俺の動きは見事に見切られ、結局一本も取れないまま一時間ほど経過し手合わせは終了した。
俺はルファに慰められながら王都への道を歩むのだった。
採取☆マスター〜スキル【採取】を活かしてスローライフを送っていましたが、このスキル、実は戦闘でも最強でした〜 囲魔 美蕾 @p4stn0wfuture
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