【完結】未知と数希の未来予知?【2485文字】

三日月未来

未知と数希の未来予知?【2485文字】

 石川数希いしかわかずきは、集合住宅の玄関で妹の石川未知いしかわみちを待っていた。

明日は妹の高校入学式で神経質な兄は念のため、妹と一緒に高校を往復することに決めている。


 ずぼらな性格の妹は時間にもルーズで兄が待てど暮らせど姿を見せず、数希は痺れを切らして妹の部屋をノックしに戻った。


「未知、まだか? 」


「お兄ちゃん、ワンピの色に迷ってたの」


「分かったから、玄関のベンチにいるから早く来て」


「もうすぐ行くわね」


 数希は知っていた。

未知のもうすぐがもうすぐでないことを。


 しばらくして、未知はレモン色の丈の短めのワンピースに同じ色の帽子を被って数希の前に現れた。

高校は、二人が住む集合住宅からすぐの距離にある。


 東都の外れの町に住んでいる数希と未知は、恋人同士のように桜が舞い散る桜並木を並んで歩いた。

小川に架かる橋を渡れば、高校の大きな玄関が見える。


 二人は昼下がりの時間帯に航空騒音が渦巻く道を急いで歩んでいた。


「お兄ちゃん、早いよ」


「未知、普通に歩いているけど」


「だって、お兄ちゃん、最近、背丈が伸びているよ」


 数希は妹の声に心が喜びで溢れて笑みを溢す。


「未知、高校の玄関だ。

ーー 明日は、あそこに見える体育館が入学式の会場になる」


「意外と目と鼻の先ね」


「あのなあ、入学試験の時に来てないのか」


「今年は、学校の都合で、別会場での試験だったの」


「そんなことあるんだ。まあいい、もう戻ろうか」


「お兄ちゃん、明日の朝の朝食用にパンとかドーナツを買わない」


「じゃ、そこのコンビニに寄ろうか」


「お兄ちゃん、コンビニじゃなくて、隣のスーパーがいいわ」


 数希はルーズな筈の妹の経済感覚に驚く。

二人は買い物を済ませて、団地のエレベーターに乗ろうとした時だった。


 数機の赤いヘリコプターが上空を旋回していた。


[ドーン]


 爆発音のあとに黒い煙が上がり、高校方向から上がっている。


「お兄ちゃん、今のは」


「未知、待って、携帯を見てみるから」


 数希は携帯でニュースを検索するが、思い当たる報道がないまま夜を迎え忘れた。




 石川未知十五歳は、微睡みの中、人影を追いかけていた。

追いかけても追いかけても追い付けない自分の影法師を追いかけている。

 未知は太陽を背に浴びて目の前にある影を追いかける。


 そこには、無邪気な子ども時代の未知の姿があった。

未知六歳の頃の記憶が甦り十六歳の未知と遭遇する。


「未知、人生って影法師だよ」


「ーー えええ、美希お姉ちゃんなに言っているの」


「追い付けないからよ」


「なんで、そう思うの」


「だってさあ、あとからあとから、終わることのない難題が続くわ」


「なんで、そんなこと知っているの」


「生まれる前は、おばあちゃんだったこと覚えているでしょう? 」


「知らないわ、そんなこと」


「おばあちゃんだった頃、たくさん経験していたわ。

ーー でもね。いつも追いつかないの。

ーー もう少しで届くところで追いつかないの」


「それは、美希お姉ちゃんの御伽噺でしょう」


「気付いた時は、お空から自分を眺めていたわ。

ーー 黄色い癒しの光に包み込まれていたの。

ーー 身体が消えていたわ」


「よく分からないけど、それは死んだと言うことなの? 」


「死んだ人に死んだという感覚がないのよ。

ーー 生きていないから・・・・・・ 」


「そうね、感覚あったら生きている証拠ね」


「光の洪水の中にいたわ。

ーー ある時、神さまが言ったの。

ーー 続きがしたいかと。

ーー それでね。続きをお願いしたの」




 未知は、枕元の目覚まし時計を見て驚く。

日付が十年前に戻っている。

 

 未知は、狐につままれた気分になって起き上がり、姿見の鏡の前に立った。

黄色い浴衣の寝巻き姿の六歳の未知が、おかっぱ頭の寝癖でボサボサの黒髪で目の前にいる。


 未知は自問自答した。

影法師を追いかけた昔の自分が前世の話をしている。


 そうして、自分の時計だけ逆戻りしていた。




 そんな馬鹿なことがあるのかと思った時だった。

 双子の姉の美希の声が聞こえてきた。


「未知、いつまで寝ているのよ」


 未知は、姉の声を無視して猫柄の抱き枕を抱きしめて抱っこしていた。


「未知、学校に遅れるわよ」


 未知は、うるさいなと呟いた。


「お母さんに向かって何を言うの、未知」


「あれ、美希は、何処? 」


「美希は、十年前に亡くなっているわ。

ーー 寝ぼけてないで、制服を着て高校の入学式に行くわよ」


「美希お姉ちゃん、入学式に来てくれたんだ」


「未知、早くして頂戴」


「お母さん、今から行くから待っていて」


 未知は、目覚め仏壇の遺影に手を合わせた。

姉の美希と母の美代が並んでいた。


 未知には、いつも姉の美希と母の美代の声が聞こえている。


「未知、おいて行くぞ! 」


 高校二年になる兄の声が、狭い団地の廊下から聞こえていた。


「お兄ちゃん、今、行くから待って。

ーー 夢の中で夢を見ていたのよ」




 大江戸山脈の彼方から春の日差しが注ぎ、未知の濡れた頬を温めた。

まだまだ肌寒い桜の季節の終わりにそよ風が横切る。


 兄の数希と並んで、昨日予行練習した高校への通学路を歩いていた二人は気付いた。

数希がパンを囓りながら言った。


「昨日と変わらないけど、なんかおかしくね」


「お兄ちゃん、言葉、汚いわ」


 未知もそう言ってパンを頬張る。

 二人は小川を越えて高校の正門前に到着した。


 緊急車両が道路にずらりと並んでいる。

兄の数希が未知に向かって言う。


「あそこ見て」


「お兄ちゃん、体育館が燃えてるわ」


 二人が前日に聞いた爆発音の正体がわかった瞬間、兄妹は言い知れぬ寒気を感じた。


「数希お兄ちゃん、きっと未来予知のスキルの性よ」


「そうだな、未知は僕より強いから注意しないと」


「入学式はどうなるの」


「ーー 多分、延期じゃないか」


 数希が携帯で報道を確認して驚く。


 北川高校上空で爆弾を搭載した軍ヘリコプター二機が空中衝突して犠牲者多数という大見出しを見た兄は、未知に言うのを躊躇う。


「お兄ちゃん、いいのよ。お兄ちゃんがいないのも知っているから」


 未知は、目に見えない幽霊と会話しながら団地に戻って行った。


「数希、美希、驚かないで聞いて、妹の未知が入学式で犠牲になったの・・・・・・ 」


 母の石川すみれは喪服姿で子どもたちに伝えた。


「数希、美希、お母さん、私はここにいるわよ・・・・・・ 」

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