第5話

香織と涼介は、毒の成分分析結果を確認するために、警察の科学捜査研究所を訪れた。彼らを迎えたのは、化学分析の専門家である吉村博士だった。


「お待ちしていました、三田村さん、藤田さん。分析結果が出ましたのでご報告します」

と吉村博士が開口一番に言った。


「ありがとうございます。どのような結果が出たのですか?」と香織が尋ねる。


「使用された毒は非常に希少な種類で、日本国内では特定の医療機関と研究施設のみで扱われているものです。特定の酵素を抑制することで、急速に致死効果を発揮します」

と吉村博士は説明した。


「それを手に入れるのは容易ではないですね。購入記録から特定の人物を絞り込むことができるでしょうか?」と涼介が続けた。


「はい。私たちはこの毒の販売記録を調べたところ、最近、藤崎名人が特定の研究施設からこの毒を購入していたことが確認されました」

と吉村博士が答えた。


「藤崎名人が毒を購入していた…これは決定的な証拠になりますね」

と香織が言い、涼介も頷いた。


「そうですね。これで彼が松本さんを毒殺した可能性が非常に高くなりました。次は、駒に付着していた指紋の解析結果を確認しましょう」と涼介が提案した。


香織と涼介は再び探偵事務所に戻り、駒に付着していた指紋の解析結果を確認した。駒に付着していた指紋は、明らかに藤崎名人のものであることが判明した。


「これで藤崎名人が毒を仕込んだ証拠が揃いましたね」と涼介が言った。


「ええ、でもまだ完全ではないわ。藤崎名人の手帳に書かれていた『王将の死角』の意味を解読する必要があるわ」

と香織が言い、手帳を広げた。


手帳には、将棋の盤面図と共に「王将の死角」という言葉が繰り返し記されていた。その意味を解読するために、香織と涼介は手帳の内容を詳しく調べ始めた。


「ここに書かれている盤面図を見て。この配置は、松本さんとの対局で使われたものと一致しているわ」と香織が指摘した。


「つまり、『王将の死角』とは、松本さんが見逃した一手を指しているのか」と涼介が推測した。


「そうかもしれない。藤崎名人はこの一手を利用して、毒を仕込むタイミングを計っていたのね」と香織が続けた。


さらに手帳を読み進めると、藤崎名人がこのトリックを緻密に計画していたことが明らかになった。彼は松本が必ずその駒を手にすることを予測し、その瞬間に毒を仕込んだのだ。


「これで全てのピースが揃ったわ。藤崎名人が松本さんを毒殺した方法と動機、そしてその証拠も揃った」と香織が言い、涼介も深く頷いた。


「次は、この証拠を警察に提出し、藤崎名人を追い詰めるだけだ」と涼介が決意を新たにした。

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