第2話

門司港の歴史的なホテルの控室で、スタッフの叫び声が響き渡った。将棋の名人戦が終わり、観客たちが帰路に着く中、控室のドアを開けたスタッフが、床に倒れている松本一郎の遺体を発見したのだ。


松本の顔には苦痛の表情が刻まれており、その手には将棋の駒が握られていた。ホテルの緊張感は一気に高まり、すぐに警察が呼ばれた。現場は封鎖され、検視官が到着するまでの間、誰も手を触れることは許されなかった。


警察が現場を検証し始める。毒物検出キットを使って駒を調べると、微量の毒が検出された。現場検証が進む中、松本の死因が急性中毒であることが確認され、捜査は殺人事件として進められることになった。


翌日、門司港の古いビルの一角にある

「Mitamura & Fujita Detective Agency」には、一人の若い女性が訪れていた。彼女は松本一郎の妹、松本涼子だった。


「兄の死の真相を知りたいんです。警察は毒殺だと言っていますが、誰がそんなことを…」


涼子の言葉には絶望と悲しみが滲んでいた。香織と涼介は彼女の話を静かに聞き、状況を整理する。


「私たちにお任せください。真実を必ず明らかにします」

と香織が毅然とした声で応えた。


香織と涼介は、さっそく事件の捜査に乗り出すことにした。二人はまず、ホテルの現場を訪れ、松本の控室を詳しく調べることにした。控室には、将棋盤と駒がそのままの状態で残されていた。


香織は駒を一つ一つ確認し、毒が塗られていた駒を特定した。その駒は松本が最後に手にしたものであり、これが毒を仕込むための道具だったと確信した。


「この駒がキーになるわね」

と香織はつぶやき、毒の種類や出所を調べるために駒を慎重に袋に入れた。


一方、涼介はホテルのスタッフや関係者に聞き込みを始めた。藤崎恭一の動向や対局中の様子、控室に出入りした人物の証言を集めるためだ。彼は慎重に情報を収集し、少しずつ事件の全貌を明らかにしようとしていた。


涼介はまず、ホテルのスタッフに対して質問を始めた。


「対局中、藤崎名人の行動に何か不審な点はありませんでしたか?」

と尋ねると、スタッフの一人が思い出すように眉をひそめた。


「確かに、藤崎名人は一度対局中に控室に戻ると言って席を立ちました。その時、何か小さな物を手にしていたように見えましたが、具体的にはわかりません。」


次に、涼介は控室近くで待機していた記者にも質問をする。


「対局中、松本さんや藤崎名人に何か異常な点が見られましたか?」


記者は少し考えてから答えた。

「松本さんは非常に集中していましたが、時折、駒を触る手が微かに震えていたように見えました。それに対して、藤崎名人は終始落ち着いていて、まるで結果を予見していたかのような冷静さでした。」


さらに、対局を観戦していた他の関係者たちにも尋ねたが、特に目立った異変は見つからなかった。


「藤崎名人の部屋にも行ってみよう」

と涼介が提案した。

「彼の動きを追うことで、新たな手がかりが見つかるかもしれない。」


香織は頷き、二人は藤崎の部屋に向かうことにした。門司港の美しい景色が広がるホテルの中で、二人は事件の真相に迫るための一歩を踏み出した。

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