8話

「明日の放課後、時間ある?」

「大丈夫だよ」

「良かった、空けといてね、屋上で話そう」


 大野おおの君がそう言って、彼は友達の所へ向かった。

 急展開というか、なんというか。

 背後から「わっ!」と驚かされて振り向くと真湖まこがいた。


「やったぜい、うち」

「えっ?」

「大野君の連絡先を友達の友達ルートでGETして、いろいろ話して、夏祭りの話題にもっていってさ」


 真湖の友達ルートは広いとはいえ凄すぎる。

 よく接点のない大野君に辿り着くものだ。

 またメールでのやり取りを直ぐやる所は尊敬する。

 きっと秒で送っているに違いない。

 疲れなかっただろうか、ごめんね大野君。


「そん時に、まだ誰と行くとか決まってなくてさ」

「そうなんだ」


 友達のお誘いなし、女の子も特になし、ふむ。


「そんでさ、誰だと良い?って聞いてみたの!そしたら」

「うんうん」


『ありがとうなかさん、俺、頑張るよ』


「とかいう訳分かんない返しがきて困ったけど、ガンバーって返したら、結果はさっきに繋がるわけ」


 つまり、真湖とのやり取りで彼の中で何か決意のようなことが芽生えたと。

 それで先程に繋がるとなると…えっ。


「てことは、大野君も…私と同じで」

「多分そう、迷っていた、ということになる」


 そ、そ、そそ…。

 頭の中が混乱しかける。


「相思相愛…いや、以心伝心…」

「あっはっは!マジウケる!」


 笑う真湖は無視して、でもありがとうと感謝するのだった。



 ドキドキしながら放課後を迎えた。

 先に来て待つ私。

 大野君は日直の仕事を終えてから来るとのこと。

 それまで待つ、緊張する。

 男の子とお祭りに行くとなると初めてだ。

 私服と浴衣、どっちが良いのかな。

 私服ならワンピースが良いのかな。

 浴衣ならどんな模様、どんなお花が良いのかな。

 色は白、黒、紺、赤、水色、青、紫…。

 一緒に祭りを楽しむ前提で勝手に考えてしまった。

 馬鹿な私、ぽかぽかと自分の頭を自分で叩いていると「ごめん、待たせたね」と声が聞こえた。

 振り向くと大野君だ。


「息切らしてるけど、急いだ?」

「まあね」

「ゆっくりでいいのに」

「女の子を待たせるなんて嫌だよ」


 紳士だなと思ってしまった。

 優しい人だ、本当に。

 彼氏になってくれたら、自分にはもったいないな。

 でも逃したら、一生独身かもと思った。

 だから絶対手放さない。心の中で決意。


「夏休み、もうすぐだね」

「うん」


 早速きた話題。

 落ち着きを装い、心はそわそわ。


「宿題、一緒にどう?」

「えっ」


 宿題の方で誘われた。

 断らないけどお祭りは?

 いや、ここは焦るな。

 もしかしたらワンクッションが宿題と思えば大丈夫。

 必ずお祭りに誘われる保証はどこにもないから、少し不安になる。


「数学苦手だから教えてね」

「分かった」


 第一段階(?)はクリアしたことになる。

 第二段階はもしかすると宿題の時にだろうか。


「どこで宿題やろうか?」

「そうだね」


 お互いに携帯で検索して良さげな所を提案して2人で決めた。

 こうして祭りのまの字もでないまま「じゃあまた明日」と大野君は帰って行った。

 残った私は空を見上げて一言。


「…意気地なし」



 屋上を出て、教室に向かって歩いていた。

 何故、“宿題”が出てしまったのか。

 自分が情けない。

 失敗したのは仕方がない。

 次、必ず祭りに誘う。

 一緒に行きたい、楽しみたい、花火だって一緒に見たい。

 見晴らしの良い隠れスポットで。

 頑張れ自分。

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