8話
「明日の放課後、時間ある?」
「大丈夫だよ」
「良かった、空けといてね、屋上で話そう」
急展開というか、なんというか。
背後から「わっ!」と驚かされて振り向くと
「やったぜい、うち」
「えっ?」
「大野君の連絡先を友達の友達ルートでGETして、いろいろ話して、夏祭りの話題にもっていってさ」
真湖の友達ルートは広いとはいえ凄すぎる。
よく接点のない大野君に辿り着くものだ。
またメールでのやり取りを直ぐやる所は尊敬する。
きっと秒で送っているに違いない。
疲れなかっただろうか、ごめんね大野君。
「そん時に、まだ誰と行くとか決まってなくてさ」
「そうなんだ」
友達のお誘いなし、女の子も特になし、ふむ。
「そんでさ、誰だと良い?って聞いてみたの!そしたら」
「うんうん」
『ありがとう
「とかいう訳分かんない返しがきて困ったけど、ガンバーって返したら、結果はさっきに繋がるわけ」
つまり、真湖とのやり取りで彼の中で何か決意のようなことが芽生えたと。
それで先程に繋がるとなると…えっ。
「てことは、大野君も…私と同じで」
「多分そう、迷っていた、ということになる」
そ、そ、そそ…。
頭の中が混乱しかける。
「相思相愛…いや、以心伝心…」
「あっはっは!マジウケる!」
笑う真湖は無視して、でもありがとうと感謝するのだった。
※
ドキドキしながら放課後を迎えた。
先に来て待つ私。
大野君は日直の仕事を終えてから来るとのこと。
それまで待つ、緊張する。
男の子とお祭りに行くとなると初めてだ。
私服と浴衣、どっちが良いのかな。
私服ならワンピースが良いのかな。
浴衣ならどんな模様、どんなお花が良いのかな。
色は白、黒、紺、赤、水色、青、紫…。
一緒に祭りを楽しむ前提で勝手に考えてしまった。
馬鹿な私、ぽかぽかと自分の頭を自分で叩いていると「ごめん、待たせたね」と声が聞こえた。
振り向くと大野君だ。
「息切らしてるけど、急いだ?」
「まあね」
「ゆっくりでいいのに」
「女の子を待たせるなんて嫌だよ」
紳士だなと思ってしまった。
優しい人だ、本当に。
彼氏になってくれたら、自分にはもったいないな。
でも逃したら、一生独身かもと思った。
だから絶対手放さない。心の中で決意。
「夏休み、もうすぐだね」
「うん」
早速きた話題。
落ち着きを装い、心はそわそわ。
「宿題、一緒にどう?」
「えっ」
宿題の方で誘われた。
断らないけどお祭りは?
いや、ここは焦るな。
もしかしたらワンクッションが宿題と思えば大丈夫。
必ずお祭りに誘われる保証はどこにもないから、少し不安になる。
「数学苦手だから教えてね」
「分かった」
第一段階(?)はクリアしたことになる。
第二段階はもしかすると宿題の時にだろうか。
「どこで宿題やろうか?」
「そうだね」
お互いに携帯で検索して良さげな所を提案して2人で決めた。
こうして祭りのまの字もでないまま「じゃあまた明日」と大野君は帰って行った。
残った私は空を見上げて一言。
「…意気地なし」
※
屋上を出て、教室に向かって歩いていた。
何故、“宿題”が出てしまったのか。
自分が情けない。
失敗したのは仕方がない。
次、必ず祭りに誘う。
一緒に行きたい、楽しみたい、花火だって一緒に見たい。
見晴らしの良い隠れスポットで。
頑張れ自分。
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