7話

 いつもの日常に戻って1ヶ月。

 そろそろ夏休みが見えてきた。

 高校生になって初めての夏休み。

 華の女子高生だから、エンジョイしたいところ。

 だが、恥ずかしくて出来ない。

 穏やかに過ごそうと考えている。

 刺激がなくても生きていけるから。

 非日常なんて憧れるが遠慮しよう。

 いつも通り過ごして、のんびりしていれば良いのだ。

 無理にライブだ夏フェスだとはっちゃければ怪我をするリスクが上がる。

 だから私は動かない。必要以上に。

 でも、1つだけ非日常を味わうのなら…。


「空手ちょーっぷ!」

「痛ッ!」


 友達のなか真湖まこが私の頭を叩いた。

 クラスのムードメーカー的存在で、中学からの馴染みである。

 背は私よりも少し高い156センチ。

 サイドテールがトレードマーク。

 リボンがついたヘアゴムで結んでいて、可愛い印象も忘れてはいない。


「なんか考えてたでしょ?」


 彼女にはお見通しのようだ。


「夏休み、もう少しだなーと」

「あー、アレねー」


 真湖はふんふんと頷き、ニヤリと口の端を上げた。


「宿題、助けて」

「早くね?」

「保険は確保しときたい」

「マジか、良いけど」

「あざーす!」


 相変わらず真湖は宿題が苦手なくせに、テストで赤点取らないから不思議だ。

 容量がいいというか、世渡り上手というか。

 人を自分の掌で転がすのが上手いというか。

 不思議な子である。


「そんかわし(その代わり)、困りごとあればお助け致す!」


 真湖は右手を腰に当てて、左手で胸をぽんッと叩いて宣言した。


「ありがとう、あったら必ずお願いする」

「がってん承知のすけー!」


 ほんと面白い子と思いクスッと笑った。



「お助けねぇー」


 自室で真湖の言葉を考えていた。

 あるのか、お助けをお願いするという。

 うーん…と考えていると、ハッ!と思い出した。

 携帯で調べて見ると、あった。


「夏祭り…これだな…」


 夏休みの定番の1つである夏祭りを思い出したのだ。

 着物を着て、屋台を見て回って、花火なんか見て、ウキウキして帰る。

 なんて素敵な事だろう。

 相手は真湖ではなく、もちろん…。


大野おおの君を誘いたい…」


 何て言えばいいんだ。

 さすがにメールでなんてとんでもない。

 かと言って直接は恥ずかしい。

 さあどうしようかー…。


「ん?」


 これは、まさに、そうだ。


 私は真湖にメールした。


『助けて下さい。訳は明日、お話致しますので』

『かしこまりんごー♪』


 次の日の放課後、真湖に恋を打ち明けて、そして相談兼お助け申請をした。

 彼女は快く引き受けて「まーかーせなさい!」と大船に乗ったような感覚になり、信用しようと決めた。


 大野君と一緒に、夏祭り、行きたいので、どうかお願いします。

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本からの贈り物〜葵の初恋〜 奏流こころ @anmitu725

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