3話

 数日に1回のペースで携帯で彼とやり取りしている。

 直接の会話はまだ緊張して出来ないから避けていた。

 ある日の昼休み。

 図書室で本を読んでいると「鹿島かしまさん」と声をかけてきた。

 顔を上げる。


大野おおの君」

「隣いい?」


 爽やかだなと思いつつ「いいよ」と言った。


「ありがとう」


 彼が隣に座った。

 私はさり気なく、座るタイミングでちょっぴり離れた。

 近いと口から内臓が出そうなくらいドキドキしてしまうから。


「何読んでるの?表紙、可愛いね」

「あっ…」


 しまった。

 ライトノベルを読んでいた私。

 誰にも知られたくないことの1つ。

 ヲタクな一面。

 世間はヲタクは気持ち悪がられる対象で、ドラマでなんとか緩和してきてはいるけど、まだまだ偏見の目が痛い。

 ここは正直に言おうと腹を括る。


「好きなんだ、こういうの」

「そうなの?」

「うん…」


 積み重ねた関係が崩壊してしまう、泣きたくなる。

 そう思っていると大野君は椅子から立ち、文庫本を手に戻ってきた。

 表紙は美少女の可愛いイラスト。

 ライトノベルだ。


「他の作品だけど面白そうだから読んでみるよ」


 彼は優しい。キュンとした。


「感想教えてね」

「もちろん」


 2人並んで読書する。

 幸せな時間になった。

 

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