#4 SCP-1910-JP はどんな存在なのか
昼行灯
UFOラーメン
東京都八王子市高尾山近辺にラーメン屋がある。
最近流行りのチェーン店ではなく、昔からあるような個人経営の店だ。
このラーメン屋のスープは醤油ベース。コクがあるのにあっさりしており、それでいて食べごたえのある味に仕上がっている。トッピングはチャーシューやメンマ、ナルトと、シンプルにまとめられていた。スープの味を邪魔しないようにしているのだろう。
この店では牛骨から出汁を取っている。昭和の時代からある牛骨ベースのラーメンだが、魚介類や鶏ガラスープが主流になっている現代では比較的珍しいタイプのラーメンだろう。
どんな味なのか一度食べてみたいと考える人もいるのではないだろうか。正直、私も食べてみたい。
しかし、このラーメンを食べるには、いくつかの問題があった。
まず、東京都から営業許可を受けていない。
言うなれば、モグリのラーメン屋である。営業許可がない飲食店となると、珍しくても遠慮したくなるのが人の心情だろう。
次に店の場所だ。
高尾山近辺の空に謎の飛行物体、俗に言うUFOを浮かべて営業している。
店の関係者も一人を除いて外見は、グレイそのものだ。
飛行機で店の前まで行けたとしても、空の上では当然電車のように途中下車は出来ない。近くに来たらちょっと寄ってみた、なんて気軽な来店は土台無理な話である。
仮に店の責任者が営業許可を取るために申請したとしよう。
上空で開店するUFOに東京都は営業許可をくれるだろうか。営業許可だけでなく飛行許可も必要になるのではないだろうか。
たとえ申請が受理されても、地球外生命体と謎の飛行物体では東京都が許可を下ろすとは到底思えない。
公平な仕事が求められるお役所だからしょうがないのかもしれないが、どんなに真面目な店でも、営業許可を取得できないのは実に残念だ。
ちなみに屋号は、UFOラーメンである。焼きそば屋ではない。
営業許可だけでなく立地的にもハードルが高いラーメン屋だが、実は訪れる手段は二つある。
一つは電話で迎えを依頼すること。
先に連絡しておくことでUFOごと迎えにきてくれる。移動店舗ならではのサービスだ。しかし、ラーメンは本来気軽な食べ物だ。食べたい時に食べたい。わざわざ電話で迎えを依頼して食べに行くぐらいなら、カップ麺でいいやと思う人もいるだろう。
そんな人のために用意されているのが、転送装置の利用だ。
各所に点在する転送装置を利用することで、あっという間に来店ができてしまう。これなら移動に時間をかけることもなく、食べたいと思った時に食べられる。なんて素晴らしいシステムだろうか。
だが残念なことに、このラーメン屋は現在普通の人は来店できないようになっている。地球でこの店を利用できるのは、異常な存在に対応できる、かつ店に迷惑をかけない協定を結んだ団体に所属している人間のみになっている。
財団はSCP-1910-JPとナンバリングした。オブジェクトクラスはEuclid。
財団は協定に加盟しているものの、収容しているとは言いづらい。それに店長達はラーメン屋を営めるほどの自律性と知性をもっている。予測不可能な行動を取る恐れがないわけではない。
必ずしも信頼できると言えない異常な存在に付与されるクラスがEuclidだ。
店の関係者には、店主はSCP-1910-JP-A、店主の奥さんはSCP-1910-JP-B、店員にはSCP-1910-JP-Cと呼称した。
SCP-1910-JP-AとSCP-1910-JP- Bは日本語を話せる。しかも誰に教わったのか関西訛りの口調だ。日本の某球団が買った次の日は、店で餃子のサービスもしている。おそらく六甲おろしも歌えるだろう。しかし、外見はグレイである。
SCP-1910-JP-Cは正真正銘の人間の男性だ。
元々は警察の行方不明リストに名を連ねている訳ありの人間だ。詳細は不明だがSCP-1910-JP-A達と酔狂な巡り合わせをしたらしく、SCP-1910-JPで働いている。とくに洗脳されたり脅迫されているわけではない、本人も納得済みの雇用だ。
三人の仲は良好らしく、ホワイトな職場なのが窺える。
SCP-1910-JP-Cは調理の助手をする一方で、6ヶ国語が話せるマルチリンガルの能力を駆使した客の対応も請け負っていた。
こうして見ると、地球外生命体や屋台がUFOということを除けば、関西出身のおっさんがラーメン屋を営んでいるようにしか感じられない。
しかし、UFO、グレイ型の地球外生命体、牛とくれば、あの現象を思い出す人も多いのではないだろうか。
牛がUFOに吸い込まれるアレ。
そう。みんな大好きキャトルミューティレーションである。
実際にSCP-1910-JPは食材調達のために、キャトルミューティレーションを行っていた。その回数は実に現象全体の7割にのぼる。
ただし、無断で牛を拝借していたわけではなかった。謎の仲介業者を挟んで、合法的に酪農家と取引をした上で行っていたのだ。
お金を払って牛を卸してもらっていたのだから、運搬作業が特殊なだけで至極真っ当な商売をしている。
また彼らの食材に人間は入っていない。うっかり牛と一緒に人間を吸い上げてしまっても、ペッと人間だけ地上に戻していた。営業時間内にお越し下さいという案内付きで。
ちゃっかり宣伝を忘れないところに商売人の血を感じる。見た目がグレイでなければ、関西人だと言われたら信じてしまいそうである。
財団は仲介業者に成り代わって、食材や器具を供給することにした。
そうすることで普通の人との接触が減り、キャトルミューティレーションを行わないで済むようになるからだ。
残りの3割や謎の仲介業者の正体は気になるものの、単純計算でキャトルミューティレーションが7割減になるのは良いことだろう。
平和的に財団の協力を得たSCP-1910-JPは、現在もラーメン屋を営んでいる。
転送装置は地球だけでなく宇宙のあらゆるところに設置してあるらしく、多種多様な客がUFOラーメンを食べに足を運んでいる。時折、地上げ屋のような集団も訪れるみたいだが、店主のSCP-1910-JP-Aが上手く対処しているようだ。
そのSCP-1910-JPから、今度SCP-1910-JPーCが独立するらしい。
SCP-1910-JP-AがSCP-1910-JP-Cを一人前と認めて、独り立ちを薦めたそうだ。
財団のフロント企業にラーメン屋が加わった暁には、ぜひ食べに行きたいものである。
#4 SCP-1910-JP はどんな存在なのか 昼行灯 @hiruandon_01
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