第28話

「ぽち、今年が残りわずかなんだけど」

 そうだな。寒くなってきて、毛がふさふさになってきた。帰ったら、ブラッシングをしてほしいくらいだ。

「ぽちはええよな。毛があるから、冬でもぬくぬくやろ」

 それでも、寒いものは寒いからな。毛は、別に万能ではないぞ。

「大して人間は、防寒具を着るしか能がない……。本当にそれでいいのか、人間は……」

 大丈夫だ。青に心配されるほど、人間は危ない状態にないし、例え何か危機が訪れても青は何もしなくてもいい。

「なぁ、ぽち。少しばかり私に毛を譲ってくれんか?」

 ブラッシングで抜けた毛であればいいが、刈り取るのはやめろよ。

 あと、俺の毛は、そんなに量がないぞ。

「ぽちの毛を集めて、コートを作れば手軽に毛皮のコートが完成や。知っとるか、ぽち。毛皮コートは高いんやで」

 だからって、俺の毛で作ろうとするなよ。個人が、一冬で完成できるような物なのか? 毛皮のコートって。

「でも、待てよ? そもそもコート作るのって、ミシンとかいるんちゃう? 家にそんなものないで。ボタン取れたら、お母さんの手縫いやし」

 そう言って青は、スマホで何やら調べ始めた。

「……、はー。なるほどなぁ……。ミシンって意外と……」

 青は、スマホをしまって、俺の頭をなでる。

「やっぱ、コートは買った方がいいみたいや。迷惑かけたな、ぽち」

 今回は、そこまで何かされたわけじゃないけどな。

 というか、毛皮のコートだったら、俺死んでるだろ。

 俺の毛で作った毛糸のセーターとかにしろ。

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犬の気持ち きと @kito72

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